航空宇宙材料: 回転膨張処理により超合金孔構造部品の疲労寿命が向上

2026年05月25日

疲労中断試験により、圧縮残留応力がHCR-EP強化インコネル718の疲労寿命向上を支配する因子であることを解明

本研究を主導した佐藤裕教授(左)とRun-Zi Wang助教(右)

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インコネル718のようなニッケル基超合金から成る構造部品において、孔周りの疲労寿命をいかに向上させるかが、材料工学における長年の課題となっている。孔構造は、タービンディスクなどの回転部品においてボルトや締結具の取付部として設けられており、高温環境下での繰り返し応力により応力集中が生じやすい。そのため、疲労き裂の発生・進展の起点となりやすく、破損リスクが高い箇所である。

ピーニングや冷間膨張処理などの現在の孔強化法は、孔縁近傍の材料に圧縮残留応力(CRS)と塑性変形を導入することで、表面健全性を向上させる。しかし、ピーニングでは表面粗さの増加が疲労寿命の向上効果を部分的に相殺し、冷間膨張処理では不均一な塑性変形や孔縁における材料の隆起・堆積を招くなど、各手法には固有の短所がある。さらに、高温環境下における表面健全性の変化と疲労寿命との詳細な関係は、依然として十分に解明されていない。

2025年、AIMRのRun-Zi Wang助教らの研究チームは、効果的な膨張処理によるインコネル718の孔構造の疲労寿命向上を目的として、新しい強化法を評価するとともに、処理済および未処理の試験片の表面健全性と高温疲労挙動を体系的に比較した1。さらに、疲労寿命の向上に主要な役割を果たす因子を特定することを試みた。

「本研究では、ヘルツ接触回転膨張処理(HCR-EP: Hertz contact rotation expansion processing)を用いました。本手法は、回転圧子を介して制御されたヘルツ接触を孔壁に付与することで孔壁を拡張し、均一な塑性変形と深いCRS層を形成します。これにより、従来手法の課題である表面損傷や孔縁における材料の隆起・堆積を最小限に抑えることができます」と、Wang助教は説明する。

高温疲労試験の結果、HCR-EP処理を施した試験片は未処理の試験片に比べ、特に高サイクル疲労領域で疲労寿命が大幅に向上することが実証された。

疲労寿命向上を支配する因子を特定するため、疲労中断試験を実施し、各段階で試験片の表面健全性を測定した。その結果、塑性変形層とマイクロ硬度はサイクル全体を通じて安定していたのに対し、CRSのみがサイクル負荷に伴い徐々に緩和することを突き止め、これが疲労寿命向上を支配する主要因子であることを示した。

「本研究成果は、疲労研究における転換点と位置づけられます。損傷を受動的に測定・予測するアプローチから、き裂の発生を未然に防ぐために材料の孔構造状態を能動的に制御するアプローチへの新たな展開を示すものです。本結果は、高温部品の長寿命化に向けた実践的な指針を与えます」と、Wang助教は語る。

今後は、加工条件・表面健全性・疲労性能をAIで結び付けた閉ループ型ワークフローを構築し、より汎用的なデータ駆動型の信頼性設計への応用が期待される。

A personal insight from Dr. Run-Zi Wang

私が最も驚いたのは、HCR-EPの有効性が使用条件の厳しさに大きく左右される点でした。比較的穏やかな条件下では疲労寿命の明確な向上が見られますが、負荷が厳しくなるにつれてその効果は小さくなります。つまり、孔強化は万能な解決策ではなく、実際の使用条件に応じて適切に選択・適用する必要があります。

研究者たちの間で特に反響が大きかったのは、製造プロセスが単なる強度向上にとどまらず、能動的に損傷を制御する手段にもなりうるという点です。従来、疲労は予測・管理の対象として捉えられてきましたが、表面状態を能動的に制御することで、疲労そのものを工学的に制御できるという新たな設計指針を提示しています。

(原著者:Patrick Han)

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  1. Wang R.-Z., Tokita S., Sato Y.S., Xu L. and Miura H. Effects of Hertz contact rotation expansion processing on surface integrity and fatigue life improvement for a nickel-based hole structure Materials Science & Engineering: A 927, 148027 (2025). | DOI: 10.1016/j.msea.2025.148027

佐藤 裕

教授(東北大学大学院工学研究科)

Run-Zi Wang

助教

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。