東北大学に量子マテリアル国際研究センター「Q2」を設立
東北大学に量子マテリアル国際研究センター「Q2」を設立
―AIと国際連携で、次世代の情報社会を支える「未来の材料」創出へ―
- 東北大学は2026年8月1日、量子マテリアル国際研究センター「Q2(キュースクエア)」を設立しました。
- 新しい物質を「創る」、電子の状態を「観る」、性質を「制御する」、「機能へつなげる」研究を、理学と工学の連携によって一体的に推進します。
- AIと国際研究ネットワークを活用し、低消費電力情報処理、量子デバイス、次世代センシングなどにつながる新材料の発見と、若手研究者の育成を加速します。
概要
東北大学は2026年8月1日、同大学材料科学高等研究所(以下、WPI-AIMR)内に、量子マテリアル国際研究センター(International Quantum Materials Center、通称Q2(キュースクエア))を設置しました。センター長にはWPI-AIMRの佐藤宇史教授、副センター長には同大学大学院工学研究科の好田誠教授が就任しました。
AIや通信技術の急速な発展に伴い、情報を高速かつ少ない電力で処理する新しい技術が求められています。その実現の鍵となるのが、超伝導や特殊な二次元物質など、通常の材料にはない性質を示す「量子マテリアル」(注1)です。
Q2では、物質を「創る」、電子の状態を「観る」、性質を「制御する」、「機能へつなげる」という研究の流れを一つの循環として融合します。さらに、実験、計測、理論計算、材料データをAIで接続し、新しい物質や実験条件の発見を加速します。
本センターはWPI-AIMRを中心拠点としながら、東北大学内の多様な研究分野をつなぎます。また、海外の大学・研究機関との共同研究や若手研究者の交流を推進し、東北大学発の量子マテリアル研究を世界へ展開します。
詳細な説明
研究の背景
生成AIやデータ駆動科学の発展に加え、計算・通信の原理を根本から変える量子技術の急速な発展に伴い、新しい原理で情報を記憶・処理できる「量子マテリアル」の創出が強く求められています。量子マテリアルとは、日常生活では目にできないミクロな量子現象が、マクロなスケールで現れる物質の総称です。物質中の電子が持つ電荷やスピン、軌道、さらに原子の配列や電子同士の相互作用が複雑に結びつくことで、通常の材料にはない性質と機能が現れます。超伝導体、トポロジカル物質(注2)、強相関電子系(注3)、二次元材料・モアレ材料(注4)、半導体量子構造(注5)などが含まれ、低消費電力情報処理、量子技術、次世代センシングなどを支える材料として世界的に注目されています。
しかし、量子マテリアルの可能性を社会の実装まで結びつけるには、材料作製、電子状態の観測、量子状態の制御、応用展開にいたる一連の研究を、分野を越えて密接につなぐ必要があります。従来、これらは異なる分野や組織の中で個別に進められがちでした。こうした隔たりを越え、研究循環を統合する新しい研究拠点として設立されたのが「Q2」です。
東北大学は、材料科学、半導体、量子物性、スピントロニクス、先端計測、理論計算などの分野で、長年にわたる研究の蓄積を有しています。また、結晶成長や低次元材料の作製、量子デバイスの開発に加え、3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注6)を活用した先端計測を推進できる環境が整っています。特に、角度分解光電子分光(ARPES)(注7)などの先端計測は、量子マテリアルの機能を担う電子の運動状態を直接明らかにします。また、半導体量子構造や二次元材料を舞台とした磁気輸送測定、時間・空間分解スピン計測、スピン・バレー計測は、量子状態を観測するだけでなく、外部から制御し、機能へつなげる役割を担います。
Q2では、こうした本学ならではの強みを並べて強化するのではなく、材料創製、先端計測、量子制御、デバイス応用を一つの研究循環として融合させます。
今回の取り組み
Q2の最大の特色は、量子マテリアルを「創る」「観る」「制御する」「機能へつなげる」という四つの研究を、一体的かつ循環的に進める点にあります。
「創る」研究では、結晶成長、薄膜作製、二次元材料、半導体量子構造、異なる材料を原子レベルで組み合わせた人工構造などを用いて、新しい量子マテリアルを作製します。
「観る」研究では、NanoTerasu、ナノARPES、走査型トンネル顕微鏡(STM)(注7)などを活用し、物質内部で電子がどのように動き、どのような量子状態を形成しているかを明らかにします。
「制御する」研究では、電場、磁場、光、電流、ひずみなどを利用し、電子のスピンやバレー(注8)、超伝導状態、磁気状態などを外部から変化させます。磁気輸送測定や時間・空間分解計測を通じて、外部刺激に対する量子状態の応答の様子を調べ、新しい制御方法を開拓します。
「機能へつなげる」研究では、得られた知見を量子デバイス、スピントロニクスデバイス、情報処理、低消費電力技術、次世代センシングなどの設計へ結びつけます。
これら四つの研究を循環させることで、ある物質の性質を明らかにするだけでなく、その結果を次の材料作製や機能設計へフィードバックし、継続的に新しい物質と機能を生み出していく研究体制を構築します。
本センターはWPI-AIMRを中心拠点として発足しますが、その活動は特定の研究所や専門分野に限定されるものではありません。東北大学内の材料科学、物理学、半導体、スピントロニクス、情報科学、デバイス工学などの研究者をつなぎ、専門分野や部局の垣根を越えた共同研究を推進します。また、ワシントン大学、ペンシルベニア州立大学、シカゴ大学、ケンブリッジ大学などをはじめとする海外の大学・研究機関との連携を進めます。各機関における材料創製、先端計測、理論、デバイス研究の独自の強みを組み合わせ、単独の研究機関では推進が難しい国際共同研究に取り組みます。若手研究者や大学院生の海外派遣、受け入れを活発化させ、異なる研究分野や研究文化の中で学び、世界の研究者と協働しながら新しい研究課題を切り拓く人材を育成します。
今後の展開
今後、Q2では、二次元材料、半導体量子構造、トポロジカル物質、量子磁性体、強相関電子系、モアレ材料などを対象に、新しい量子状態と機能の開拓を進めます。「創る」「観る」「制御する」「機能へつなげる」という研究循環と、AI駆動型の知識循環(注9)を組み合わせることで、新しい量子マテリアルの探索、物性の理解、量子状態の制御、デバイス機能の設計を加速します。さらに、学内の分野横断連携と国際共同研究を発展させ、東北大学を国内外の量子マテリアル研究者が集う国際的な研究ハブへと成長させます。これにより、低消費電力情報処理、量子デバイス、次世代センシングなど、将来の情報社会を支える新しい材料と機能の創出を目指します。
こうした国際連携を具体化する取り組みの一つとして、2026年9月24日にはシアトルにおいて、東北大学、ワシントン大学、米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)などの研究者が参加するワークショップを開催し、量子マテリアル研究の将来展開と新たな国際共同研究の可能性について議論する予定です。

図1. 量子マテリアル国際研究センターが目指すAI駆動型の知識循環
量子マテリアルを「創る」「観る」「制御する」「機能へつなげる」研究を、理学・工学の分野横断連携とAIによって循環的に接続し、新しい物質候補、測定条件、機能設計へフィードバックする。
用語解説
- 注1. 量子マテリアル
- 日常生活では目にできないミクロな量子現象が、マクロなスケールで現れる物質の総称。物質中の電子が持つ電荷、スピン、軌道などの性質や、原子の配列、電子同士の相互作用が結びつくことで、通常の材料にはない物性や機能が現れる。超伝導体、トポロジカル物質、強相関電子系、二次元材料などが含まれる。
- 注2. トポロジカル物質
- 物質中の電子状態が特殊な幾何学的性質を持つ材料。物質の表面や端のナノメートル(10億分の1m)クラスの微細な領域に、乱れや欠陥の影響を受けにくい量子状態が現れる場合があり、低消費電力デバイスや量子技術への応用が期待されている。
- 注3. 強相関電子系
- 物質中の電子同士が強く影響し合い、一つ一つの電子を独立に扱うだけでは性質を説明できない物質群。特殊な磁性や超伝導など、多様な量子現象が現れる。
- 注4. 二次元材料・モアレ材料
- 二次元材料は、原子数層程度の極めて薄い物質。異なる二次元材料を重ねたり、わずかに角度をずらして重ねたりすると、「モアレ」と呼ばれる長周期の模様が生じ、元の材料にはない電子状態や機能が現れることがある。
- 注5. 半導体量子構造
- 半導体を非常に薄い層や微細な構造に加工し、電子の動きを量子力学的な効果によって制御する構造。量子井戸、量子細線、量子ドットなどがあり、電子・光デバイスや量子技術の基盤となる。
- 注6. NanoTerasu(ナノテラス)
- 東北大学青葉山新キャンパス内に整備された3 GeV高輝度放射光施設。非常に明るくエネルギーの高い光(X線)を物質に照射することで、物質の原子構造、電子状態、化学状態などを高精度に調べることができる。
- 注7. ARPES・ナノARPES・STM
- ARPES(角度分解光電子分光)は、物質に光を当てて飛び出した電子のエネルギーと方向を測定し、物質中の電子状態を直接調べる手法。ナノARPESは、光を微小な領域に絞り、材料内の微細な領域ごとの電子状態の違いを調べる。STM(走査型トンネル顕微鏡)は、極めて細い探針を物質表面に近づけ、原子配列や局所的な電子状態を観察する手法。
- 注8. スピン・バレー・スピントロニクス
- スピンは、電子が持つ小さな磁石のような性質。バレーは、結晶中の電子が取り得る複数の谷状の量子状態を指す。電子の電荷だけでなくスピンなどの性質を情報の記憶や処理に利用する研究分野をスピントロニクスと呼び、低消費電力情報処理への応用が期待されている。
- 注9. AI駆動型の知識循環
- 実験、計測、理論計算、材料データベースなどの膨大な情報をAIによって結びつけ、お互いの関係性を即座に網羅して、有望な物質候補、作製条件、測定条件、機能設計を提案する研究の循環。提案を実験で検証し、その結果を再びAIに戻すことで、次の予測や提案の精度を高める。
関連情報
問い合わせ先
研究に関すること
東北大学材料科学高等研究所
教授 佐藤 宇史(さとう たかふみ)(研究者プロフィール)
| Tel: | 022-217-6169 |
|---|---|
| E-mail: | t-sato@arpes.phys.tohoku.ac.jp |
東北大学大学院工学研究科
教授 好田 誠(こうだ まこと)(研究者プロフィール)
| Tel: | 022-795-7316 |
|---|---|
| E-mail: | makoto.koda.c5@tohoku.ac.jp |
報道に関すること
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室
| Tel: | 022-217-6146 |
|---|---|
| E-mail: | aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp |



