安価な青色顔料触媒でCO2をガス燃料メタンに高効率変換する手法を実現
安価な青色顔料触媒でCO2をガス燃料メタンに高効率変換する手法を実現
―CO2のワンステップでの再燃料化技術に道―
発表のポイント
- 安価な青色顔料を電極触媒とした電気化学反応により、二酸化炭素(CO2)をメタン(CH4)に高選択的に変換することに成功しました。
- 最大約8割の反応選択率と約80時間の耐久性を実現し、また理論計算により複雑な反応経路を解明しました。
- CO2の再燃料化をワンステップで実現する技術に繋がる重要な発見であり、次世代のCO2有効活用技術として期待される成果です。
概要
地球温暖化対策として、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素(CO2)をメタン(CH4)などの燃料に変換するCO2電解還元(ECR)技術が注目されています。しかし従来技術では、反応選択率の向上や生成物の分離精製が大きな課題となっていました。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の刘騰義(Tengyi Liu)特任助教、李昊(Hao Li)教授、藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)らの研究グループは、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の小野新平教授、北海道大学電子科学研究所の松尾保孝教授、および東北大学発スタートアップ企業のAZUL Energy株式会社(仙台市、伊藤晃寿社長)らのグループと共同で、安価な青色顔料の一種である銅フタロシアニンを電極触媒として用いた電気化学的二酸化炭素電解還元(Electrochemical CO2 Reduction, ECR)により、CO2を高選択的にガス燃料であるCH4に変換できることを見出しました。本手法は、従来困難であったCO2の再燃料化をワンステップで実現する技術に繋がる重要な発見であり、次世代のCO2有効活用(CO2 Capture and Utilization, CCU)技術として期待されます。
本研究成果は、現地時間の8月2日に科学誌Smallのオンライン速報版に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
二酸化炭素(CO2)の排出削減と有効利用は、地球温暖化対策として世界的に喫緊の課題です。その中でも、電気化学的にCO2をCH4などの燃料へと変換するCO2電解還元(Electrochemical CO2 Reduction, ECR)は、再生可能エネルギーを利用したカーボンリサイクルの有力な手段であり、温室効果ガスであるCO2をガス燃料であるCH4にワンステップで変換できるため、有望なCCU技術として注目されています。
しかしながらECRによるCO2→CH4変換は副反応の多い8電子反応系であり、CH4選択率を上げることが難しいとされています。特に従来用いられてきた銅ナノ粒子系の触媒では、CH4だけでなくH2やCO、C2H4などの混合ガスが生成するため、合成後にガス分離による精製が必要となるなどの課題がありました。
今回の取り組み
これまで東北大学の藪研究室では、青色顔料である金属フタロシアニン系材料を炭素に担持(付着)させたレアメタルフリー触媒を開発し、燃料電池や水電解への応用について報告してきました。また、ごく最近には、コバルトフタロシアニン(CoPc)を電極に塗布することで、CO2→COの電気化学的な変換が高効率で実現できることを報告しています。
今回、銅フタロシアニン(CuPc)を多孔質炭素(ケッチェンブラック、KB)に担持した触媒を塗布したガス拡散電極(GDE)を用いてECRを行ったところ、最大電流密度575 mA/cm2、最大79.5%のファラデー効率(注1)で高選択的にCH4への変換が実現できることが明らかとなりました(図1)。また、150 mA/cm2の電流密度で60%以上の選択率を維持したまま、約80時間の耐久性を確認しました(図2)。この性能は、従来検討されてきたナノ粒子触媒や、銅原子を窒素で錯化したCu–N–C触媒(注2)と比較して、電流密度、触媒回転頻度(注3)、安定性、質量活性(注4)、そして反応選択性のすべてにおいて卓越した性能であると言えます(図3)。
さらに、理論計算によって、複雑な反応経路の中で他のC1化合物への変換経路に比較して、本触媒上ではCH4への変換経路が最もエネルギー的に低く、効率的な反応経路が選択されていることが明らかとなりました。
今後の展開
本手法は従来困難であった二酸化炭素の再燃料化をワンステップで実現する技術に繋がる重要な発見であり、次世代の二酸化炭素有効活用(CO2 Capture and Utilization, CCU)技術として期待されます。
今後は、本触媒を実装した電解槽を用いて、実際の工場由来やDAC(Direct Air Capture)技術などで空気中から回収したCO2を原料にしたCH4の合成について実証を進め、技術の社会実装に向けた基礎の構築を進める予定です。

図1. 銅フタロシアニンを担持したカーボンの模式図(左図)とCO2→CH4変換の触媒性能(右図、最大電流密度と最大ファラデー効率)。
図2. 耐久性の評価結果。
図3. 既往の触媒との比較。
謝辞
本研究はJST未来社会創造事業本格研究(JPMJMI25I1)、科学研究費(JP23H00301, JP24K17741, JP25K01737, JP26K17914, JP26K17934)等の支援を受けて実施されました。
用語解説
- 注1. ファラデー効率
- 流れた電流の総量から実際に目的物の生成に使われた電流の割合を示す。ECRにおいては、目的物生成の選択率を示す指標となる。
- 注2. Cu–N–C触媒
- 炭素網面中に金属原子を窒素などのヘテロ元素を介して担持した触媒群のうち、Cuを中心金属とする触媒を示す。銅フタロシアニンは銅を4つの窒素で錯化した触媒であり、Cu–N–C触媒の一つと考えられる。
- 注3. 触媒回転頻度
- 一つの触媒が生成物を単位時間当たりに生成できる能力を示す指標。高いほど触媒活性が高い。
- 注4. 質量活性
- 触媒質量あたりでの触媒活性を示す。ECRにおいては触媒質量あたりの生成物に使用される電流量を示し、高いほど触媒活性が高い。
論文情報
| タイトル: | Unraveling Structure-Dependent Performance of Cu–N–C Molecular Catalysts for Electrocatalytic CO2 Methanation |
|---|---|
| 著者: | Tengyi Liu, Xiaofan Hou, Songbo Ye, Kosuke Ishibashi, Yutaro Hirai, Yasutaka Matsuo, Shimpei Ono, Hao Li, and Hiroshi Yabu |
| 掲載誌: | Small |
| DOI: | 10.1002/smll.75041![]() |
問い合わせ先
研究に関すること
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
教授 藪 浩(研究者プロフィール)
| Tel: | 022-217-5996 |
|---|---|
| E-mail: | hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp |
報道に関すること
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室
| Tel: | 022-217-6146 |
|---|---|
| E-mail: | aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp |



