固体イオニクス: 総説論文が超イオン伝導体の設計指針に

2026年01月26日

骨格構造の連結性に着目し、次世代電池材料における高速イオン輸送の鍵を解明

本研究を主導したAIMRの折茂 慎一所長(左)とKartik Sau特任講師

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固体が液体と同じくらい効率良くイオンを伝導するには、構造的・化学的にどのような条件が必要か?これは、固体イオニクスにおける中心的な課題である。エネルギー密度と動作安全性の両面で従来のリチウムイオン電池を超える全固体電池を開発するためには、この課題を解決しなければならなかった。

しかし、数十年にわたる研究の進展にもかかわらず、高速イオン伝導体を設計するための普遍的な指針を見出すのは困難であった。

AIMRのKartik Sau特任講師は、「イオン伝導性は、類似した構造を持つ材料間でも大きく異なる場合があります。結晶構造、ボトルネック形状、イオン間相互作用などのわずかな違いが、イオン移動度を劇的に変化させる可能性があるためです。この複雑さにより、経験的な発見から予測可能な理論主導の設計へと進むことが困難になっていました」と、説明する。

2024年、AIMRの折茂 慎一所長とSau特任講師らの研究チームは、層状酸化物、多面体骨格構造、クラスター陰イオン材料などの複数の固体高速イオン伝導体における近年の動向を調査した総説論文を発表した1。実験的観察と理論的知見を統合することで、構造とイオン輸送の根本的な関係を明らかにすることを目的とした。

この総説論文の最も大きな特徴は、材料の骨格構造に着目した点である。研究チームは、物質を化学組成で分類するのではなく、陰イオン骨格(イオンの移動経路を定義する構造的な足場)の連結性に基づいて整理した。

この骨格構造中心の視点により、多様な材料群にわたって高速イオン伝導を支える普遍的な設計原理が明らかになった。その原理とは、三次元格子間ネットワーク、分極可能な陰イオン格子、協調的なイオン運動である。

「材料の骨格構造に着目したことにより、イオン伝導率のおおまかな傾向を特定することができました。例えば、柔軟で分極した骨格を持つ材料、特にハロゲン化物や水素化物をベースとした伝導体は、室温で25 ~ 70 mS/cmのイオン伝導率、0.1 ~ 0.3 eVという低い活性化エネルギーを達成できます。特に、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3 およびNa2(CB9H10)(CB11H12)のイオン伝導率はそれぞれ25 mS/cm、70 mS/cmであり、これらは液体の電解質に匹敵する性能です」と、Sau特任講師は語る。

本総説論文は、複雑な材料における構造と物性の相関を整理・統合することで、次世代の固体電解質を設計するための明確な指針を提供している。骨格構造を中心とした視点により、優れたイオン伝導性を持つ材料を予測・設計することができ、より安全で優れた全固体電池の開発を加速させる。

研究チームは現在、これらの知見に基づいて、陰イオン回転メカニズム、材料合金化戦略、機械学習アプローチに焦点を当てて研究を進めている。将来的には、実用化に必要な高性能・電気化学的安定性・安全性を兼ね備えた新しい高速イオン伝導体の発見につながることが期待される。

A personal insight from Dr. Kartik Sau

最も達成感を感じたのは、数十年にわたる散在した研究を、材料設計のための明確で実用的な枠組みへと変換できたことです。これまで十年以上高速イオン伝導の研究に携わってきた中で、回転する多面体陰イオンの役割、リチウム系とナトリウム系における異なる設計指針、そしてMg2+やCa2+のような多価イオンの原理など、十分に評価されていなかった方向性があることに気づきました。この総説論文は、これらの洞察をシンプルな設計指針へと変換するための基盤となりました。

今後、これらの設計指針により、電気自動車や大規模の再生可能エネルギー貯蔵のための、より安全で大容量の電池開発が加速されると考えています。また、機械学習と組み合わせることで、圧力熱量冷却や高度なセンシング用途など、新しい分野においてイノベーションを起こす可能性を秘めています。

(原著者:Patrick Han)

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  1. Sau K., Takagi S., Ikeshoji T., Kisu K., Sato R., Campos dos Santos E., Li H., Mohtadi R. and Orimo S. Unlocking the secrets of ideal fast ion conductors for all-solid-state batteries Communications Materials 5, 122 (2024). | DOI: 10.1038/s43246-024-00550-z

折茂 慎一

AIMR所長、教授

Kartik Sau

特任講師

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。