神経科学研究: ハイドロゲル技術で実現したモジュール構造型ネットワークで研究が飛躍

2025年02月10日

人工神経細胞回路の活動計測を空間・時間双方に高解像度化したAIMR主導のイノベーション

本研究を行なった佐藤氏(左)、平野教授(中央)、山本准教授(右)

生物の脳を構成する神経細胞がどのようにつながっていて、どのような機能を生み出しているのかを理解することは、健常状態と疾患状態におけるネットワークの動作の違いを明らかにし、脳の働きや神経疾患のメカニズムを解明する上で重要な鍵となる。

こうした神経回路の構造と機能の関係を探るために、時間的にも空間的にも高い解像度で神経活動を記録できるデバイスの上で、神経細胞を自在に操作する技術の開発が進められている。

「従来の多点電極アレイは、高い時間精度で神経活動を記録できるものの、空間解像度には限界がありました。より精緻な空間情報も同時に取得できる方法を模索したことが、今回の研究の出発点です」と、AIMRの山本英明准教授は説明する。

2023年、山本准教授、平野愛弓教授らの研究チームは、マイクロ流体デバイスを用いた細胞操作技術と高密度多点電極アレイ(HD-MEA)を組み合わせることで、この目的を達成した1

「私たちは、ハイドロゲルを使った表面修飾技術を応用し、HD-MEA上でマイクロ流体デバイスを自由に扱えるようにしました」と山本准教授は語る。「この技術によって、培養細胞をHD-MEA上に自在に配置し、様々な構造の神経回路を作れるようになりました。その結果、細胞同士の接続情報があらかじめ分かった神経回路(人工神経細胞回路)の活動を詳細に解析することが可能になったのです。」

この細胞操作技術の応用範囲は多岐にわたる。研究チームはAIMR、RIEC(東北大学電気通信研究所)、大分大学、早稲田大学、公立はこだて未来大学など15機関の研究者と連携して、文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) 「脳神経マルチセルラバイオ計算の理解とバイオ超越への挑戦2」を立ち上げた。

この領域からは2024年10月、リザバーコンピューティングと予測符号化を統合した脳型情報処理モデルにおいて、従来型の人工ニューラルネットワークを、HD-MEA上での状態を想定した神経細胞ネットワークの数理モデルに置き換えられることを示唆する興味深い成果が発表されたばかりである3

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Sato Y., Yamamoto H., Kato H., Tanii T., Sato S. and Hirano-Iwata A. Microfluidic cell engineering on high-density microelectrode arrays for assessing structure-function relationships in living neuronal networks Frontiers in Neuroscience 16, 943310 (2023). | article
  2. Project page
  3. Sato Y., Yamamoto H., Ishikawa Y., Sumi T., Sono Y., Sato S., Katori Y. and Hirano-Iwata A. In silico modeling of reservoir-based predictive coding in biological neuronal networks on microelectrode arrays Japanese Journal of Applied Physics 63, 108001 (2024). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。