絶縁体: ディラック電子に重さを与える

2012年03月26日

表面ディラック電子のエネルギースペクトルにギャップを持つ状態が発見されたことで、トポロジカル絶縁体の有用性が大幅に高まった

トポロジカル絶縁体から従来型絶縁体へ。トポロジカル絶縁体のタリウム-ビスマス-セレン(左上)からタリウム-ビスマス-硫黄(右下)へと変化するにつれ、表面状態の「X」字型が徐々に崩れ、エネルギー状態にギャップが生じる。
トポロジカル絶縁体から従来型絶縁体へ。トポロジカル絶縁体のタリウム-ビスマス-セレン(左上)からタリウム-ビスマス-硫黄(右下)へと変化するにつれ、表面状態の「X」字型が徐々に崩れ、エネルギー状態にギャップが生じる。
 

© 2011 S. Souma(参考文献1より)

トポロジカル絶縁体は、電子の磁性(スピン)の低損失な制御が可能であることから、省エネルギー素子などの開発において最も有望な電子材料のひとつと考えられている。トポロジカル絶縁体の優れた特性は、その表面電子のエネルギー状態に基づいている。そこでは、電子はディラック電子と呼ばれる状態になり、質量のない粒子のように伝播するからだ。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の高橋隆教授、相馬清吾助教らは、東北大学大学院理学研究科と大阪大学の研究者らとともに、ある種のトポロジカル絶縁体では表面状態の電子も質量を持ちうることを明らかにした1。これは、スピンエレクトロニクスに全く新しい効果をもたらす驚くべき発見である。

通常の電子とは異なり、トポロジカル絶縁体の表面状態の電子は「時間反転対称性」を示す。たとえば、この電子の運動をカメラで撮影することができたら、フィルムを順送りにしても逆送りにしても、常に同じに見えるはずである。トポロジカル絶縁体には、エネルギー損失を防ぐなどの多くの魅力的な特性があるが、そうした特性の核心にあるのがこの時間反転対称性である。この指標の特徴は、電子エネルギーを運動量に対してプロットすると、表面エネルギー状態が明確なX字型を示すことである(図参照)。

研究者らは今回、タリウム-ビスマス-セレンというトポロジカル絶縁体において、このX字型のディラック電子状態がどのように変化していくかを調べた。実験には、世界最高のエネルギー分解能を持つAIMRの角度分解光電子分光装置を用いた。研究者らは、トポロジカル絶縁体のセレン原子を徐々に硫黄原子に置き換えていった。完全に置換したタリウム-ビスマス-硫黄はトポロジカル絶縁体ではなく通常の絶縁体なので、セレンを硫黄に少しずつ置き換えることによって、トポロジカル絶縁体から通常の絶縁体への遷移を追跡できることになる。

硫黄含有量が増えるにつれ、表面エネルギー状態のX字型は徐々に崩れ始め、「X」の中央に隙間(ギャップ)ができる。これは、電子がもはや質量がないようにはふるまっていないことを意味する。「ギャップを持つトポロジカル絶縁体では磁気的効果と電気的効果が結合しており、その強さは物質に無関係であると予測されています」と相馬助教は説明する。このことは、情報記憶技術において特に重要になるかもしれない。そのような効果を利用すれば、電場による磁気情報の制御が可能になるからだ。

今回の研究は、現在最も精力的に研究されている材料のひとつであるトポロジカル絶縁体の技術的重要性を強く裏づけるものである。「私たちの次のステップは、このエネルギーギャップの起源を研究することです。この点については、まだほとんど理解されていないからです」と相馬助教は言う。さらには、予測されている新しい磁気電気結合効果を実験により実証することが重要になるようだ。

References

  1. Sato, T., Segawa, K., Kosaka, K., Souma, S., Nakayama, K., Eto, K., Minami, T., Ando, Y. & Takahashi, T. Unexpected mass acquisition of Dirac fermions at the quantum phase transition of a topological insulator. Nature Physics 7, 840 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。