青色顔料の改良でCO2からCOへの変換性能を従来比で約4倍に向上

2025年10月15日

国立大学法人東北大学
国立大学法人北海道大学
AZUL Energy 株式会社

青色顔料の改良でCO2からCOへの変換性能を従来比で約4倍に向上

─温暖化ガスを有効な化学原料に変える技術の社会実装へ─

発表のポイント

  • 安価な青色顔料の一種であり燃料電池や金属空気電池の触媒としても注目されてきたコバルトテトラアザフタロシアニン(CoTAP)が、二酸化炭素(CO2)の資源化触媒(注1)として有効であることを発見しました。
  • CoTAPを用いることで高い効率(>98 %)でのCO2から一酸化炭素(CO)への変換を実現し、CoPcに比べて3.77倍の高い質量活性(注2)を達成しました。

概要

近年、気候変動対策として温室効果のあるCO2を回収し、COなどの有用な化学原料に変換する技術が注目されています。

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の刘騰義(Tengyi Liu)特任助教と藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)、李昊(Hao Li)教授(主任研究者)らの研究グループは、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の小野新平教授と吉田純也准教授、北海道大学電子科学研究所の松尾保孝教授、および東北大発スタートアップ企業AZUL Energy株式会社(仙台市、伊藤晃寿社長)らのグループと共同で、燃料電池や金属空気電池の触媒としても開発が進んできたテトラアザフタロシアニン(CoTAP)を用いることにより、高い効率(>98 %)でのCO2から一酸化炭素(CO)への変換を実現し、CoPcに比べ3.77倍の質量活性を達成しました。

本研究成果は、9月30日付(中央ヨーロッパ夏時間)でナノサイエンスとナノテクノロジーの国際的学術誌Smallのオンライン速報版に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景

二酸化炭素(CO2)の排出削減と有効利用は、地球温暖化対策における世界的な喫緊の課題です。なかでも、電気化学的にCO2を一酸化炭素(CO)などの有用な化学原料へと変換する「CO2電解還元(ElectroChemical Reduction:ECR)」は、再生可能エネルギーを活用したカーボンリサイクルの有力な手段として注目されています。

しかし、ECRによる高効率なCO2→CO変換には、反応選択性の高い触媒が不可欠です。従来は金や銀といった貴金属、あるいは銅などの遷移金属ナノ粒子が触媒として用いられてきましたが、これらはコストの高さや選択性の限界といった課題を抱えていました。加えて、これらはガス拡散電極にバインダーとともに担持する形で利用されますが、実用化に向けてはさらなる改善が求められていました。一方、分子状触媒、特に金属フタロシアニンやポルフィリン錯体は高い選択性を示すものの、単分子の安定性や導電性の不足が実用化の障壁となっていました。

東北大学の藪研究室ではこれまでに、安価な青色顔料の一種である金属フタロシアニンを直接結晶化するプロセス(参考文献1)や、炭素材料上に結晶化させる手法(参考文献2)を開発し、高いCO2→CO変換効率と耐久性を実現してきました(図1(1)・(2))。しかし、実用的応用にはさらなる高活性・高耐久性、そして質量活性(少量で高い触媒性能を発揮すること)の向上が求められていました。

今回の取り組み

本研究では、これまで燃料電池や金属空気電池の触媒としても注目されてきた コバルトテトラアザフタロシアニン(CoTAP)に着目しました(図1(3))。CoTAPは、従来型のコバルトフタロシアニン(CoPc)の4つのベンゼン環(C6H6)をピリジン環(C5H5N)に置換した分子であり、CO2分子との静電的相互作用や触媒活性中心での吸着能向上が期待される材料です。

今回、CoPcおよびCoTAPを導電性カーボン材料であるケッチェンブラック(KB)表面に結晶化させ、ガス拡散電極に塗布してCO2電解還元を行いました。その結果、CoTAPを用いた電極において、98%以上のCO2→COファラデー効率(注3)、1 A/cm2を超える電流密度での高速電解、150 mA/cm2で112時間の長時間耐久性をを実現しました。さらに、従来のCoPcに比べて 3.77倍の質量活性を示し、より少ない量の触媒で高い性能を発揮できることが明らかになりました。

この高い性能は、①CoTAP結晶がCoPc結晶よりも電気抵抗が低く導電性が高いこと、②理論計算により、CoTAPが反応中間体をより効率的な吸着状態に安定化できること、に起因すると考えられます(図2)。

さらに、これまで報告されている金属フタロシアニン系触媒と比較した場合、最大電流密度、触媒回転頻度、耐久性、質量活性、ファラデー効率のいずれの指標においても、CoTAPは極めて高い性能を示すことが明らかとなりました(図3)。


図1. 従来のCoPcを用いた検討(1)(2)とCoTAPを用いた本研究(3)。


図2. (a)CoPc結晶・CoTAP結晶粉体に圧力を加えた際の抵抗値の変化。CoTAPの抵抗値が顕著に低いことがわかる。(b)CoPcとCoTAPにおける反応中間体のギブス自由エネルギー。CoTAPが高い活性を有している。


図3. これまで報告されている主な金属フタロシアニン系触媒とCoTAPを触媒として用いた場合の最大電流密度、触媒回転頻度、耐久性、質量活性、ファラデー効率の比較。

本研究の意義

本研究は、分子構造の最適化により、安価な顔料触媒を用いてCO2から合成燃料の中間体であるCOを高効率で合成できるプロセス開発に繋がり、合成燃料のボトルネックの一つであるCO2の資源化に関わるエネルギー効率の向上とコスト削減に貢献することで、次世代のCO2有効活用に繋がる技術として期待されます。

参考文献

  • T. Liu*, D. Zhang*, Y. Hirai, K. Ito, K. Ishibashi, N. Todoroki, Y. Matsuo, J. Yoshida, S. Ono, H. Li*, H. Yabu*, “Surface Charge Transfer Enhanced Cobalt-Phthalocyanine Crystals for Efficient CO2-to-CO Electroreduction with Large Current Density Exceeding 1000 mA cm-2”, Advanced Science, 12(23), 2501459 (2025).
  • T. Liu*, D. Zhang*, Y. Chu, K. Ohashi, Y. Hirai, K. Ito, K. Ishibashi, Y. Matsuo, J. Yoshida, S. Ono, K. Kamiya, H. Li*, H. Yabu*, “Breaking the Single-Molecule Paradigm: Multilayer Cobalt Phthalocyanine/Carbon Core-Shell Structure as the Superior Active Unit for CO2-to-CO Electroreduction”, Applied Catalysis B: Environment and Energy, 381, 125852 (2026).

謝辞

本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(JP23H00301, JP24K17741, JP24K23068, JP25K01737, JP25K17991)、文部科学省ARIM (No. JPMXP1223HK0074, JPMXP1224HK0103)、および科学技術振興機構未来社会創造事業(JPMJMI22I5)などの支援を受けて行われました。

用語解説
注1. 触媒化資源
二酸化炭素などを化学反応で有用な物質に変える働きをもつ触媒。
注2. 質量活性
触媒の重さ1グラムあたりで、どれだけ反応が進むかを示す指標。
注3. ファラデー効率(FE)
電気化学反応において、全電流に対する生成物に寄与した部分電流の割合を示す。

論文情報

タイトル: Ampere-Level Electrosynthesis of CO via Well-Defined Pyridinic-N Incorporated Cobalt Phthalocyanine
著者: Tengyi Liu, Xiaofan Hou,Di Zhang,Yutaro Hirai, Kosuke Ishibashi, Yasutaka Matsuo, Junya Yoshida, Shimpei Ono, Hao Li and Hiroshi Yabu
掲載誌: Small
DOI: 10.1002/smll.202507824新しいタブで開きます

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 藪 浩(やぶ ひろし)(研究者プロフィール

Tel: 022-217-5996
E-mail: hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
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