機械学習を活用し、量子ドットの電圧を自動的に調整する手法を実証

2026年03月06日

国立大学法人東北大学

機械学習を活用し、量子ドットの電圧を自動的に調整する手法を実証

─ 大規模量子コンピューターの調整自動化に期待 ─

発表のポイント

  • 半導体量子ドット(注1)の測定により得られる電荷状態安定図(注2)から、人工知能(AI)に含まれる機械学習を用いて電荷遷移線(注3)を自動的に抽出し、線の角度と位置を特定する手法を提案しました。
  • 上記の結果をもとに、量子ドットの大規模化の際に有用となる仮想ゲートの定義や、量子ドットの単一電子領域の特定を自動で行う手法を提案、実証しました。
  • 本手法を活用することで、将来的に人手では不可能なレベルの多数の半導体スピン量子ビット(注4)の調整を可能にし、量子コンピューター(注5)の大規模化につながることが期待されます。

概要

半導体スピン量子ビットは集積性や既存の半導体技術との親和性の高さなどの観点から、量子コンピューターの構成要素として期待されています。量子コンピューターの実用化のためには、大量の量子ビットが必要とされることから、これらをより効率的に調整する手法を開発することが重要です。

東北大学大学院工学研究科の武藤由依大学院生(電気通信研究所配属)、同未踏スケールデータアナリティクスセンターのMichael R. Zielewski特任助教(研究当時、同大学院情報科学研究科所属)、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の篠﨑基矢特任助教と大塚朋廣准教授(電気通信研究所兼任)らの研究グループは、量子ドットの測定から得られる電荷状態安定図をAIモデルの一種であるU-Netに学習させることで、図上に現れる電荷遷移線の自動抽出を実証しました。さらに、抽出結果を画像処理技術やクラスタリング手法を用いて解析することで、量子ドットの大規模化の際に有用となる仮想ゲートの定義や、量子ドットの単一電子領域の特定を自動で行う手法を提案、実証しました。今後は本手法を用いて、より多数のスピン量子ビット自動調整の実証を目指し、量子コンピューターの大規模化に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2026年2月14日(現地時間)に科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景

量子コンピューターの実用化には、膨大な数の量子ビットが必要です。特に、半導体スピン量子ビットは従来の半導体技術と相性が良く、集積化に適しているため注目されています。しかし、大規模な量子ビットシステムを手動で調整するのは現実的ではありません。そこで、自動化が重要になります。

スピン量子ビットは、ゲート電極の電圧を細かく調整し、量子ドットという微小な領域に電子を1つだけ閉じ込めることで作られます。この操作を繰り返すことで量子ドットを増やしていきますが、隣接する量子ドットに影響が及ぶため、調整が複雑になります。この問題を解決する方法の一つが「仮想ゲート」という仕組みで、各量子ドットを独立して制御できるようにします。しかし、仮想ゲートの定義や単一電子状態の調整は、量子ドットの数が増えると調整に時間がかかり、手動で対応するのは現実的ではありません。したがって、大規模化を見据えた場合、これらを効率的に自動化する技術が不可欠となります。

今回の取り組み

研究グループは、量子ドットを独立して制御するための仮想ゲートを自動で定義すると同時に、量子ドットに電子を1つだけ閉じ込める条件を自動で見つける方法を開発しました。この方法にはAIに含まれる機械学習を活用しています。全体の流れは図1に示されています。

まず、量子ドットの状態を測定し、「電荷状態安定図」という画像を取得します。この図には、電子の数が変わるときに現れる線(電荷遷移線)が描かれています。この画像をAIモデルの一種であるU-Netに入力し、電荷遷移線の部分だけを自動で抽出します。U-Netは、画像の中で特定の領域を塗り分けるのが得意なAIです。本研究では、実験で得られた複数の図を使ってU-Netを学習させ、ノイズを含むさまざまなデータにも対応できるようにしました。

抽出した線は、ハフ変換という画像処理技術で解析し、線の位置や角度を特定します。この情報をもとに、まず仮想ゲートを自動で定義します。仮想ゲートは、複数のゲート電極の電圧を組み合わせて、特定の量子ドットだけを操作できるようにする仕組みです。検出された線の傾きをもとに仮想ゲートを設定します。

さらに、2種類の線の交点の最も左下の領域を「単一電子領域」と呼び、ここを特定することで、電子を1つだけ閉じ込める条件を見つけます。線が複数検出されるため、クラスタリングというAI手法で整理し、正確な領域を決定しました。

最終的に、図1に示すように、単一電子領域を仮想ゲート軸で表示することができます。これにより、周囲の条件を変えても、電子1つを保ったまま量子ドットを追加できる仕組みを自動で構築することができます。この手法を繰り返すことで、量子ドットを効率的に拡張し、大規模な量子システムを実現できると考えられます。

今後の展開

今回の研究では、機械学習を活用して量子ドットの調整を自動化する手法を提案しました。今回は基本単位となる2つの量子ドットで実証しましたが、この方法を応用すれば、より多くの量子ドットにも対応できると考えられます。今後は、半導体量子コンピューターの大規模化に向けて、さらに多数のスピン量子ビットを自動で調整できるように発展させていく予定です。


図1. 本手法全体の流れ。測定で得られた電荷状態安定図をU-Netモデルに入力し、電荷遷移線を自動的に抽出。その後、ハフ変換で直線検出を行い、その結果をクラスタリングする。最終的には単一電子領域を仮想ゲート軸で表示するところまで自動で行うことができる。

謝辞

本研究の一部は、JSPS科学研究費(JP23KJ0200, JP21K18592, JP23H01789, JP23H04490)、東北大学人工知能エレクトロニクス卓越大学院プログラム、および卓越研究員事業等の支援を得て行われました。

用語解説
注1. 半導体量子ドット
電子が三次元的に閉じ込められた寸法が数十ナノメートル程度(nm:ナノは10億分の1)の半導体。量子箱とも言う。
注2. 電荷状態安定図
量子ドットのゲート電極電圧を変化させたときの電荷状態を表す図。各量子ドット中の電子数に応じてセンサ信号が変化するので、この図を確認することでゲート電極電圧を操作した際の各量子ドット中の電子数が分かる。
注3. 電荷遷移線
電荷状態安定図中で、量子ドット中の電子数が変化した際に電荷センサ信号が変わることによって、電荷状態が遷移する箇所を示す線。
注4. 半導体スピン量子ビット
量子コンピューターの計算素子である量子ビットの実装法の1つ。半導体量子ドット中に電気的に閉じ込められた電子のスピンをビットとして活用する。
注5. 量子コンピューター
量子力学の現象を情報処理技術に適用し、従来型の古典コンピューターでは容易に解くことのできない複雑な計算をこなすことができるコンピューター。

論文情報

タイトル: Automatic detection of single-electron regime and virtual gate definition in quantum dots using U-Net and clustering
(U-Netとクラスタリングによる量子ドットの単一電子領域検出と仮想ゲート定義の自動化)
著者: ui Muto, Michael R. Zielewski, Motoya Shinozaki, Kosuke Noro, and Tomohiro Otsuka
掲載誌: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-026-38889-7新しいタブで開きます

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
(兼)東北大学 電気通信研究所
(兼)東北大学 大学院工学研究科
(兼)東北大学 Tohoku Quantum Alliance (TQA)
(兼)東北大学 先端スピントロニクス研究開発センター
准教授 大塚 朋廣(研究者プロフィール

Tel: 022-217-5509
E-mail: tomohiro.otsuka@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
E-mail: aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp