国際ワークショップ
ヨーロッパの材料科学者との交流を推進する

2019年08月26日

フランスで開催された二つの国際会議は、AIMRの研究者にとって、ヨーロッパの科学者との間で最新の研究成果を共有して連携を強化する、またとない機会となった

ヨーロッパ材料科学会(E-MRS)の春季総会と秋季総会は、ヨーロッパにおける材料科学の二大イベントである。東北大学材料科学高等研究所(AIMR)は今年も、国外での認知度をさらに高めるべく、フランスのニースで5月27~31日に開催されたE-MRS春季総会に参加した。E-MRSの2019年春季総会は、国際材料研究学会連合(IUMRS)の先進材料国際会議(ICAM)との連携による大掛かりなものとなった。AIMRとE-MRSの関係は古く、これまでの会議にもAIMRが積極的に参加してきたことから、今年の春季総会では小谷元子所長が、他の4人とともに会議全体の座長を務めることとなった。

訪れた研究者たちと交流するスタッフ
E-MRSの2019年春季総会において、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の展示ブースで訪れた研究者たちと交流するスタッフ。

2014年、2016年、2018年に続き、AIMRはE-MRS春季総会の期間中、材料関連の他の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の3拠点、すなわち物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の代表者と協力してヨーロッパ内外に向けてWPIのプロモーションを行った。その数日後には、4拠点の代表者が共同でNanoMatに参加した。NanoMatは、日本とフランスのナノ材料科学者の連携強化を目的として企画されたワークショップである。

4拠点が協力して日本の材料科学を紹介

メタフルイドを用いた分子検出感度の向上について講演する藪浩准教授
E-MRSの2019年春季総会において、メタフルイドを用いた分子検出感度の向上について講演する藪浩准教授。

WPIの4拠点は、今年のE-MRS春季総会でも合同で展示ブースを出し、WPIと4拠点の活動を紹介した。5月28~30日の3日間出展されたWPIのブースでは、WPIと4拠点に関する数々のポスターやパンフレットの展示に加え、さまざまな景品が当たるくじ引きも行われ、訪れた研究者たちを楽しませた。また、4拠点のアウトリーチスタッフが質問に答えたり、各拠点のユニークな研究環境や重要な成果について説明したりする様子も見られた。WPIのブースには、日本の研究者と共同研究を行ったり、日本に滞在した経験があるシニア研究者、そして日本の研究機関でのキャリアアップの機会に関心を寄せる若手研究者など、さまざまな分野や国の研究者が数多く訪れた。

ペロブスカイト太陽電池の安定性と性能の向上について説明するTeng Ma助教
E-MRSの2019年春季総会のポスター発表において、ペロブスカイト太陽電池の安定性と性能の向上について説明するTeng Ma助教(写真中央:白いシャツを着用)。

セッションでは、AIMRの研究者は2件の口頭発表と4件のポスター発表を行った。藪浩准教授は、磁場に応答し、表面増強ラマン分光解析法による分子検出感度を大幅に向上させる「メタフルイド(メタマテリアル流体)」と呼ばれる新たな種類の材料について講演を行った。熊谷明哉准教授は、グラファイト・グラフェン電極における酸化還元反応のナノ電気化学イメージング解析について発表した。また、Teng Ma助教はポスターセッションにおいて、ペロブスカイト材料の面内構造の最適化による安定な高効率太陽電池の実現について発表を行った。Ma助教は、この発表における、ペロブスカイト太陽電池の安定性と性能を同時に向上させるための提案が評価され、ベストポスター賞を受賞した。

センサー技術の最先端

E-MRSの春季総会の最終日には、サテライトイベントとして、先進センサーの分子技術に関する日仏ジョイントワークショップ(France–Japan joint workshop on molecular technology for advanced sensors)が開催された。フランスCNRSのマルセイユナノサイエンス学際センター(CINaM)のAnne Charrier研究員と、MANAの若山裕副拠点長による挨拶の後、10人の招待講演者がセンサー技術に関する最新の研究結果について講演を行った。ここで取り上げられたセンサーは、分子、ガス、光、生体分子を検出するセンサー、有機電界効果トランジスターを用いるセンサー、ポリマーや有機化合物に基づくセンサー、電気的・電気化学的・光学的変換を利用するセンサーなど、実に多岐にわたった。AIMRからは熊谷准教授が参加し、二次元材料における特異な電極触媒反応が発生する領域を特定したナノ電気化学イメージング結果に関する講演を行った。熊谷准教授は、グラフェンなど多様な二次元材料において電極触媒反応である水素発生反応とその要因を特定したことを説明した。この研究成果は大いに関心を集め、講演後も議論が交わされた。材料科学分野における長年の日仏交流は、今後も、最先端のセンサー技術の開発を推進し続けるだろう。

共にナノ材料を探究する

続く2019年6月3~5日には、パリのソルボンヌ大学ジュシューキャンパスでNanoMat 2019が開催された。NanoMatはフランスと日本で交互に開催されているワークショップで、今年は第13回日仏ナノマテリアルワークショップと第4回WPI材料科学ワークショップが同時に開催された。NanoMat 2019は、フランスCNRSのナノサイエンス研究クラスターであるC’Nanoと、日本のMANA、iCeMS、I2CNER、AIMRが共同で開催した。

ナノ電気化学イメージング結果について講演する熊谷明哉准教授
NanoMat 2019においてナノ電気化学イメージング結果について講演する熊谷明哉准教授。

NanoMat 2019は、C’Nanoのディレクターで今回のワークショップの組織委員会の代表でもあるCorinne Chaneac教授と、ソルボンヌ大学理工学部長のStéphane Régnier教授による歓迎の挨拶で幕を開けた。次に、WPIの4拠点の代表者(MANA副拠点長の中山知信教授、I2CNERの松本広重教授、AIMR研究支援部門長の池田進准教授、iCeMS研究支援部門長の橋田充特定教授)が各拠点を紹介した。その後、フランスと日本の研究者たちによる口頭発表が行われた。夕方には、AIMRのMa助教、池田准教授、阿部博弥助教のポスター発表が行われ、フランスの科学者との実り多い議論が繰り広げられた。2日目は、藪准教授がナノ複合材料の合成について、熊谷准教授がリチウムイオン電池電極におけるリチウムイオンの脱離・挿入に起因するナノ電気化学イメージング技術について講演を行った。NanoMat 2019では施設の見学ツアーも開催され、見どころの一つとして、ソルボンヌ大学ジュシューキャンパス内のほぼすべての核磁気共鳴(NMR)システムが集められている共通機器室の見学もあった。

また、ワークショップの期間中には、次回のNanoMatが仙台のAIMRで開催されることが発表された。これにより、材料科学分野における日仏間の良好な関係がさらに深まることが期待される。

今回フランスで開催された二つのイベントは、フランスのみならずヨーロッパにおけるAIMRの認知度をさらに高めるのに役立ったといえる。AIMRは、次回のNanoMatをはじめ、今後も科学者交流イベントに積極的に参加していくことで、海外の研究者との間にさらに強固な協力関係を築こうとしている。