国際ワークショップ
ヨーロッパやアジアとの関係を深める

2018年10月29日

AIMRはヨーロッパやアジアの研究者、研究機関との連携を積極的に推進している

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らは、6月にフランスのストラスブールで開催されたヨーロッパ材料科学会(E-MRS)の2018年春季総会に参加し、ブースを出展するとともに合同ワークショップを開催した。参加の目的は、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)と材料科学関連の四つのWPI拠点の国際的な認知度を高めることにある。AIMR、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 (I2CNER)の4拠点がE-MRS春季総会に合同で参加するのは、今回で3度目である。

E-MRSの2018年春季総会(フランス、ストラスブール)におけるWPIの展示ブース
E-MRSの2018年春季総会(フランス、ストラスブール)におけるWPIの展示ブース

WPIの展示ブースは、WPIと4拠点の活動をE-MRS総会の参加者に宣伝する重要な場となった。ブース出展中の3日間、ヨーロッパの多くの研究者がブースに立ち寄った。夕刻に開催したレセプションでは、日本の伝統的な食べ物や飲み物を楽しみながらポスターやパンフレットを見て回り、WPI拠点の研究者と意見交換を行った。日本に滞在したり日本の研究者と共同研究を行ったりした経験のあるシニア研究者、日本の研究機関で働くことに興味を持つ若手研究者、日本の学術機関に関心を寄せる他のブースの参加者など、さまざまな研究者がブースを訪れた。ブースを運営したのは4拠点のアウトリーチスタッフであるが、セッションの合間にはWPIの研究者も加わった。WPIメンバーがヨーロッパの研究者と直接やり取りすることは、WPIと4拠点の認知度の向上にとって非常に重要だ。

STAM-WPI合同ワークショップにおいて当該ワークショップとWPIの紹介を行うAIMR研究支援部門長の池田進准教授
STAM-WPI合同ワークショップにおいて当該ワークショップとWPIの紹介を行うAIMR研究支援部門長の池田進准教授

さらにWPI拠点は今年、材料科学のオープンアクセスジャーナルScience and Technology of Advanced Materials (STAM)と共同で、最先端材料科学の今後の発展に関する合同ワークショップを開催した。このワークショップは、2年前にWPIとSTAM のメンバーが、日本の材料科学コミュニティー全体の活動を共同でアピールできないかと話し合ったことをきっかけに企画された。ワークショップでは、初めにAIMRの研究支援部門長である池田進准教授がワークショップの目的を説明し、WPIの枠組みを紹介した。続いて、STAM の編集委員長である東京大学の山口周教授がSTAMの紹介を行った。その後、四つのWPI拠点とスイス連邦材料試験研究所(Empa)の研究者が、「材料科学は持続可能な社会の実現にいかに貢献するか」に関する五つの講演を行った。

AIMRの藪浩准教授は、ナノ構造ポリマー粒子の形状を制御する実験的・理論的アプローチについて講演を行った。藪准教授のチームはこれまでに、貧溶媒を含んだポリマー溶液から、単純な溶媒蒸発法により、さまざまなナノ構造を持つブロック共重合体粒子を作製する簡便な方法を開発している。こうして作製されたユニークな相分離構造は、AIMRの数学者の助力によって開発した数学モデルで説明できる。この方法を用いて、医療や環境問題の解決に役立つ新しいナノ構造材料を作り出すことができるかもしれない。

四つのWPI拠点は2014年から隔年でE-MRSの総会に合同で参加しており、国際交流や国際連携の推進に効果をもたらしている。

清華大学との結びつきを強める

一方、東北大学とアジアとの関係においては、材料科学とスピントロニクス科学に関する清華大学(中国北京市)とのジョイントワークショップが、長年の国際パートナーとの相互交流が進展した好例であるといえる。

東北大学と清華大学の関係は、長年にわたる人的交流を通して深まってきたものだ。両大学は、さかのぼること1998年に、初の学術交流協定に署名した。東北大学の一部局であるAIMRも、清華大学との協力関係を育んできた。なかでも大きな貢献をしたのはQikun Xue清華大学副学長で、清華大学の物理学部教授およびAIMRの主任研究者として両機関の連携に主導的な役割を果たしただけでなく、東北大学の中国校友会会長として両大学間の橋渡し役も務めてきた。

パートナーとの連携の強化には共通の研究テーマを定めることが重要であり、それが双方向の情報交換と研究者の交流につながる。この方法でパートナーとより緊密な関係を築くため、AIMRはケンブリッジ大学(英国)とシカゴ大学(米国)にジョイントリサーチセンターを設立し、現在は清華大学にも新たなセンターを設立する準備を進めている。

2017年12月には、東北大学デイの一環として、総長臨席のもと材料科学とスピントロニクス科学に関する初のジョイントワークショップが清華大学で開催された。AIMRからは数人の研究者がワークショップに参加し、清華大学に新しいジョイントリサーチセンターを設立する計画について話し合った。AIMRは今年、材料科学とスピントロニクス科学に関する第2回東北大学−清華大学ジョイントワークショップを企画した。このワークショップは、東北大学が新たに指定国立大学となったことを受けて設立された新しい材料科学研究拠点における重要なイベントとなった。

仙台で開催された材料科学とスピントロニクス科学に関する東北大学-清華大学ジョイントワークショップで基調講演を行うAIMR主任研究者の折茂慎一教授
仙台で開催された材料科学とスピントロニクス科学に関する東北大学-清華大学ジョイントワークショップで基調講演を行うAIMR主任研究者の折茂慎一教授

7月26日、覚書への署名、プレナリー講演、高橋隆教授の研究室への見学ツアーの後、ウェスティンホテル仙台でワークショップが開催された。両大学の開会の挨拶に続いて二つの基調講演が行われ、東北大学AIMRおよび金属材料研究所の折茂慎一教授がエネルギーデバイス向けの高性能水素化物の研究について講演を行い、清華大学のKe He教授が固有磁性絶縁体材料の探索について講演を行った。

続いてワークショップの参加者たちは、二つのパラレルセッション「新奇電子材料とスピントロニクス」と「構造材料と機能性材料における新潮流」のいずれかを聴講した。どちらのセッションでも、両大学の研究者間の密な交流が際立っていた。一方で、研究にとどまらない交流もあった。例えば、清華大学のJing-Feng Li教授は、1991年に東北大学でPhDを取得し、2002年まで東北大学工学研究科・工学部で勤務した経歴を持つことから、両大学の研究者間の交流の仲介役として重要な役割を果たしてきた。また、今回のワークショップで講演した清華大学の研究者のうち何名かも過去に東北大学で研究を行っている縁がある。

AIMRは、こうした国際イベントを通じて、WPI拠点の重要なミッションであるグローバルネットワークの強化と国際化の推進をはかっている。AIMRはさらなる高みを目指し、国際的な頭脳循環のダイナミックなハブになろうとしている。