里見総長X小谷機構長対談
AIMRのシステム改革が大学を変える
2014年10月27日
AIMRが取り組んできたさまざまなシステム改革が東北大学全体に波及し、同大学が世界のトップレベルへと飛躍するための道筋をつけた
文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、2007年に設立された東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は、当初から取り組んでいるシステム改革が功を奏し、世界を代表する材料科学研究機構へと大きく躍進した。東北大学はAIMRの取り組みを高く評価し、その効果を大学全体のさらなる発展のために役立てようとしている。里見進東北大学総長と小谷元子AIMR機構長が対談を行い、AIMRのシステム改革の実例と東北大学全体への波及効果を検証するとともに、今後東北大学がホスト機関としてAIMRに期待していることについて意見を交わした。
システム改革の効果
里見総長:東北大学は「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の伝統、理念を大切にしていますが、国際化の流れの中で、伝統を守りつつも柔軟にシステムを改革し、世界をリードする大学へと成長していく必要があります。私は2012年の総長就任後、「ワールドクラスへの飛躍」と「復興・新生の先導」という2つの目標を掲げ、これらを確実に達成するための7つのビジョンをまとめた「里見ビジョン」を発表しましたが、この中でも各所にシステム改革の重要性を採り上げています。今年度で8年目を迎えたAIMRは、これまでどのようなシステム改革を進めてきたのでしょうか。
小谷機構長:最初に申し上げたいのが、トップダウン型の意思決定の制度導入についてです。日本の大学では教授会で意思決定を行うのが一般的ですが、AIMRでは機構長によるトップダウン型の意思決定システムを導入し、臨機応変で迅速な対応が可能となりました。私が2012年に機構長職を拝命してからは、数学-材料科学連携でブレークスルーをもたらす取り組みを進めていますが、短期間で分野融合が加速し着実に成果が出ているのも、このトップダウン型の意思決定の成果であると思います。
もうひとつ強調したいのが事務部門の改革です。これまでは何かやりたいと思っても、伝統的なルールのために改革を進めることが困難でした。しかし、AIMRでは事務スタッフが非常に前向きで大学を変えていこうという意思をもっているので、研究者を支えつつ必要な改革を進めながら業務を行っています。これに加え、事務スタッフが、従来は研究者が行っていたような外国人研究者の招聘や、国際シンポジウム運営を行うノウハウを確立しているので、国際的な研究所としての運営が大変スムーズに進んでいます。
里見総長:この国際化に向けた取り組みとして、私は、本学が本年7月に設立した高等研究機構(OAS: Organization for Advanced Studies)を重視しています。AIMRをOASの最初の研究所とすることで弾みをつけた後、ほかの研究所も組み入れていき、本学の国際化や世界最先端研究を先導する場とする予定です。OASの中にはAIMRが蓄積したノウハウを活かしたResearch Reception Centerを置いていますし、OASの設立は、AIMRのシステム改革が本学にもたらした最大の波及効果と言えるでしょう。
小谷機構長:ありがとうございます。機構全体がエネルギーを注いできたことが形として残り、大学を発展させることに関わることができて、大変光栄に思っています。
人事規定の改革
小谷機構長:AIMRにはWPIの研究拠点として、世界からの優秀な研究者の獲得がミッションのひとつとして掲げられていました。そのために高い報酬を提示できるようにすることは、国際研究所として必須の取り組みでした。人材の獲得競争がグローバル化している中、これまで以上にインセンティブを与えないと一流の研究はできない上、優れた研究者や学生が集まる機関にもならない、と強く感じています。
AIMRがまず着手したことは、研究者のモチベーションを上げるために、年度毎に業績の評価を行い成果に基づく給与体系を確立することでした。AIMRの研究者は、給料や研究環境など、全てに関して交渉可能です。このような取り組みが、AIMRが成功している理由のひとつになっていると思います。また、東北大学のほかの部局や国内外の研究機関に所属する優秀な研究者がAIMRのPIを兼任できるjoint appointment systemも導入しました。
里見総長:研究業績に対して相応の給与を支払う習慣は、日本の大学にはありませんでした。大学全体としても、AIMRの給与制度を踏まえ、優秀な教授陣に給与面でメリットを与えるためのdistinguished professor systemを導入しています。Joint appointment systemをうまく用いて人材流動を活性化させることも、東北大学は率先して進めていかなければなりません。優秀な研究者が東北大学に集まり、東北大から巣立っていく、そのような世界的頭脳循環(global brain circulation)のハブとなるためのプロジェクトチームを設置し、議論を進めているところです。
英語対応可能な研究サポート体制の確立
小谷機構長:英語での研究サポート体制の確立もWPI拠点として必須の課題でしたが、その大部分はAIMR設立初期に完成しています。事務スタッフの90%以上が日本語と英語での対応が可能であり、日々のお知らせや研究資金の公募情報は両言語で送付されます。また、外国人研究者を含めすべての研究者が、さまざまな事務手続きや国際シンポジウム等の運営を不自由なく行える体制を整えています。
私が機構長になってから取り組んだことには、研究支援センターの設置があります。この中の共通機器ユニットでは、研究者が共通して必要とする基礎的な分析装置を共通機器室に設置し、博士号を持った専門スタッフが英語でサポートを行うので、研究者は着任直後から本格的に実験を行うことができます。
里見総長:英語による事務サポートも、本学が国際的な大学になるための必須の取り組みであり、AIMRが先鞭をつけてくれました。AIMRで育った事務の方々が別の部局に異動することで、波及効果が広がっています。
小谷機構長:最近、AIMRで作成した英語による秘書マニュアルや、海外の研究機関、研究者とのやりとりを英語で行うためのメール文例集など、AIMRの事務部門が蓄積したノウハウを全学で共有できるようにしました。大学の英語対応に役に立てるよう、AIMRとしてもできることを既に進めております。
さらなる飛躍に向けて
小谷機構長:これまでお話しした以外にも、多くの改革を実現することができました。例えば、構成員が自由に使用できる交流用スペースを用意し、研究者間、研究者と事務スタッフ間の交流を促進しています。このようなopen atmosphereを醸成する試みは従来の日本の文化ではなかなか根付きませんでしたが、研究が大きく進展するための大切な要素だと思っています。ここでは毎週金曜日のTea Timeをはじめ、融合研究のプレゼンテーション、訪問研究員によるセミナーなどさまざまなイベントを行って交流を深めています。このようにしてできた人と人とのつながりは、実際に融合研究の促進という形でも成果として表れています。
里見総長:最後に、AIMRがシステム改革だけでなく、教育面でも随分大学に貢献していることを申し添えたいと思います。今年度より、本学が世界でリードするスピントロニクスの分野に特化した大学院の設置を進めていますが、これが実現できるのもAIMRに所属されるスピン科学の世界的研究者と国際ネットワークのお陰であり、とても感謝しています。
本学は、今後もAIMRでの成功例を積極的に取り入れ、大学全体がワールドクラスへと飛躍し、国際的な頭脳循環のハブとして機能できるよう、改革を行っていきたいと考えています。