サマースクール
材料科学の奥深さに触れた若手研究者たち

2012年09月24日

2012年7月23〜29日、AIMRのサマースクールが仙台で開催された。講義・演習はすべて英語で行われ、世界各国の大学院レベルの学生が参加した。

ASSM2012に参加した学生、指導教員、スタッフ。
ASSM2012に参加した学生、指導教員、スタッフ。

2012年7月下旬、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は、世界13カ国から30名の大学院レベルの学生を迎えた。彼らは2012年AIMR材料科学サマースクール(ASSM2012)の参加者で、材料科学の最先端をゆくAIMRの研究者から最新の研究について学ぶために仙台に集まってきたのだ。

1週間にわたる英語での材料科学入門プログラムは、次世代の世界レベルの研究者を育成するために努力を重ねるAIMRにとって、非常に重要なものになるだろう。ASSM2012の目的は、物理学、化学、材料科学、デバイス工学、精密工学などの分野で将来を嘱望されている若手研究者や優秀な大学院生に、AIMRで行われている材料科学研究やその技術を体験したり、最先端の実験装置を実際に使用したり、AIMRの研究者や学生たちとグローバルなネットワークを構築する機会を提供することにある。

サマースクールは、当初は2011年から始まる予定になっていたが、東日本大震災のため、今年が初の開催となった。それでも、参加申し込みが始まると、世界各国の修士課程と博士課程の大学院生が200人近くも応募してくる人気ぶりとなり、AIMRの選抜委員会は、応募者の専攻や関心分野のほか、サマースクールへの参加を希望する動機なども考慮した上で、参加者を決定した。

サマースクールは、「先端材料からよりよい未来の創造へ」というテーマのもと、午前中はAIMRの4つの主要な研究グループ(ソフトマテリアル、材料物理、デバイス/システム、バルク金属ガラス)の主任研究者による講義を受け、午後の実習では2人1組になってAIMRの研究者の指導のもとに、研究室でさまざまな実験を行うというプログラムにより実施された。

研究室実習でAIMRの研究者から直接指導を受ける参加者。
研究室実習でAIMRの研究者から直接指導を受ける参加者。

7月23日月曜日の午後、AIMRの小谷元子機構長の開会の辞によってサマースクールが始まった。小谷機構長は、ASSM2012の目的は学生に「ハイレベルな先端研究に触れる機会」を提供することにあるとし、若手研究者が集まって今後の研究に役立つネットワークを構築することの重要性を強調した。「人類は今、歴史上類を見ない、多くの複雑な問題に直面しています。研究者同士のネットワークは、こうした問題を解決するために欠かすことのできないものとなるでしょう。AIMRは世界中の一流研究機関とネットワークを形成していますが、その基盤にあるのは、学生や研究者の間に形成されるネットワークだと考えています」。

学生たちにとって、世界トップクラスの材料科学研究者と過ごすその後の4日間は、ネットワークづくりの絶好の機会となった。24日の午前中には、ソフトマテリアル研究グループの主任研究者で、国際コロイド・界面科学者連盟の会長である栗原和枝教授が最初の講義を行い、ナノ材料科学技術のための表面力測定について論じた。

午前中の講義が終わると学生たちは研究室に行き、4時間の実習をした。実習のテーマは、多孔質なスポンジ状ナノポーラス金属の作製から、細胞と薬剤輸送に用いられるハイドロゲルづくりまで、多岐にわたっていた。学生たちは、一流研究者による教室での講義と、最先端の実験装置を使う実習がバランスよく組み合わされたこのプログラムを通じて、材料科学の多くの魅力的な側面に触れ、AIMRの研究目標と実績を知ることができた。

最後の2日間は、学生たちがASSM2012プログラムで学んだことについてプレゼンテーションを行った。
 
最後の2日間は、学生たちがASSM2012プログラムで学んだことについてプレゼンテーションを行った。
 

25日以降も、著名な研究者による講義は続いた。材料物理研究グループの谷垣勝己教授は、ナノ材料の機能と産業への応用について論じた。デバイス/システム研究グループの宮崎照宣教授は、磁性材料の重要性と磁性を直観的に理解する方法について語った。谷垣教授は、かつてNECの研究所で研究チームを率いて、超伝導の分野で多大な貢献をしたことで知られている。宮崎教授はトンネル磁気抵抗(TMR)研究の草分けであり、2009年には固体物理学分野で最も権威ある賞であるオリバー・E・バックリー固体物理学賞を受賞している。

最後の講義は、2011年にフランス国立科学研究センター(CNRS)から優秀科学賞を受賞したバルク金属ガラス研究グループのAlain Reza Yavari教授が行った。CNRSで最高水準の評価を受けているYavari教授は、バルク金属ガラスから微視的なスケールまで、金属ガラス全般にわたる研究について説明した。

サマースクールの参加者に修了証書を授与する小谷機構長(右)。
サマースクールの参加者に修了証書を授与する小谷機構長(右)。

27日金曜日の午後に講義と実習が終了すると、学生たちは、密度の高い1週間の学習の締めくくりとなる週末のディスカッションとプレゼンテーションのための準備に取りかかった。また、蔵王ロイヤルホテルでこけしの絵付けをして、日本の伝統文化の一端に触れることもできた。

最後のプレゼンテーションとディスカッションが終わった29日の午後、閉会式が執り行われ、学生たちはサマースクールの修了証書を受け取った。こうして、世界各国の学生とAIMRの研究者の双方にとって実り多かった1週間は終わり、AIMRと東北大学は、世界中の若手研究者を育成するミッションを実践することができた。