国際ワークショップ
脚光を浴びるグリーン・イノベーション

2011年05月30日

2011年2月21日から24日まで、仙台で第4回WPI-AIMRアニュアルワークショップが開催され、世界各国から多数の研究者が参加した。

WPI-AIMRアニュアルワークショップは、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)での研究生活のなかで特に重要なイベントとして位置づけられている。機構のメンバーは、世界中から集まったトップレベルの研究者と顔を合わせ、材料科学の最先端の問題について話し合い、人脈を築き、今後の計画を立てる。今年のワークショップは早春の陽光の下、2月21日から24日まで仙台国際センターで開催された。

このワークショップはWPI-AIMRが設立された当初から始まったもので、今年で4回目を迎えた。今年は、『グリーン・イノベーションのための最先端の機能性材料』というテーマを掲げ、10カ国にわたる41の研究機関から220人以上の科学者が参加した。そのなかには、アジア太平洋地域、ヨーロッパ、北米の世界的に名高い材料科学者が多数含まれていた。

仙台国際センター
仙台国際センター

ワークショップの前日、山本嘉則WPI-AIMR機構長はこの会合が活気にあふれた建設的なものになることへの期待を語り、英国のケンブリッジ大学をはじめとする主要な国際研究機関との連携の強化や、WPI-AIMRのグリーン・イノベーションへの取り組みの推進など、機構のさらなる発展のために思い描いている計画について説明した。山本機構長は、ワークショップの参加者への歓迎のあいさつでもこの点に触れ、WPI-AIMRの研究者が進めている融合研究の進展について紹介し、グリーン・イノベーションはこの機構の研究活動の中心に位置づけられると話した。

「グリーン・イノベーションのための新しい機能性材料を創出し、グリーン・マテリアルの開発につなげていくために、融合研究のアプローチが必要であることは明らかです」と山本機構長は述べた。続いて開会のあいさつをした井上明久東北大学総長は、WPI-AIMRが「並はずれた努力により融合研究を推進し、新しい研究分野をつくり出している」ことを称えつつ、この成功の裏には、3つのサテライトセンターを含む22の海外連携機関とのネットワークが重要な役割を果たしていることを指摘した。WPI-AIMRには外国人研究者が多く、現時点で合計128名の研究者の過半数を占めている。このことは、この機構の国際的な展望を証明するものと言えるだろう。

Georg Bednorz教授
Georg Bednorz教授

井上総長はまた、彼が2007年に発表した東北大学のアクションプラン(「井上プラン」)の実現において、WPI-AIMRが鍵となる役割を果たすことを期待していると語った。井上総長はWPI-AIMRを「東北大学の研究基盤を強化する推進力」と呼び、社会に利益をもたらすグリーン・イノベーションに取り組むWPI-AIMRの「時宜を得た」戦略を称賛した。黒木登志夫WPIプログラムディレクターは、この会合への歓迎のあいさつにおいて井上総長のメッセージを強調し、WPI-AIMRが「未来の社会のための新しい材料を創出し、材料科学研究の先頭に立つ」ことへの期待を語った。

オープニングセッションに続いてアカデミックプログラムが始まった。最初の特別セッションでは、3名の著名な材料科学者が、それぞれの研究分野における最先端のテーマについて講演を行った。1人目は、1987年にノーベル物理学賞を共同受賞したIBMチューリッヒ研究所のGeorg Bednorz教授で、超伝導研究の最新事情を解説した。Bednorz教授は、2011年が超伝導現象の発見から100周年にあたることを紹介し、高温超伝導研究の近年の進展について語った。これまで25年間に劇的に重要性を増した高温超伝導は、今日では信頼性が高く、環境にやさしく、効率のよいエネルギー利用を可能にする鍵となる技術と見なされている。 

Peter Grünberg教授
Peter Grünberg教授

この講演と好対照をなしていたのが、2007年にノーベル物理学賞を受賞したドイツのユーリッヒ研究センターのPeter Grünberg教授の講演だった。同教授は、巨大磁気抵抗の利用と、この技術が世界のエネルギー問題を解決する可能性について語った。実は、Grünberg教授の今回のワークショップへの貢献はこれが2つ目だった。彼はその前夜に、ワークショップの参加者の交流を深めるために開かれた親睦会で、日本とオーストリアの民俗音楽を演奏した楽団のメンバーとして、皆を大いに楽しませてくれたのだ。 

特別セッションを締めくくったのは、カーボンナノチューブ研究の先駆者として知られる名城大学の飯島澄男教授だった。WPI-AIMRの連携教授でもある飯島教授は、カーボンナノチューブとグラフェンの工業規模での生産と応用に関する現在の最先端技術について報告を行った。この講演のテーマは、材料科学研究における最も差し迫った問題の1つであるだけでなく、2010年のノーベル物理学賞がグラフェン研究分野の先駆者に贈られたこともあり、さらに重要性を増してきている。

飯島澄男教授
飯島澄男教授

アカデミックプログラムでは、これらの特別セッションのほかに、WPI-AIMRの海外サテライトセンターのメンバーを含む世界各国の著名な材料科学者による20のプレナリー講演や、6つのパラレルセッションも行われた。前年と同じく、講演プログラムを補完するため、ワークショップの初日と2日目に、多数のトピックをカバーするポスター発表が80以上も行われた。

第4回WPI-AIMRアニュアルワークショップの3日間に発表された研究内容は、バルク金属ガラス、材料物理学、ソフトマテリアル、デバイス/システム構築を主軸に多岐にわたるものだった。ワークショップの充実した内容は、WPI-AIMRの広範な研究活動を反映すると同時に、その年間行事の1つとしてのワークショップの重要性を強く印象づけるものだった。