スピントロニクス: 光による磁性制御の新展開
2026年09月28日
コバルト/白金合金で未知のトルクを発見し、光誘起磁化における電子軌道運動の重要性を提示
本研究を主導した抜井康起氏(左)と水上成美教授
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円偏光を強磁性金属に入射すると、磁化を変化させることができる。この現象は長年、「逆ファラデー効果(IFE)」によって説明されてきた。IFEでは、光が瞬間的に、その波数ベクトルに沿った磁場のように振る舞うと考えられている。一方近年の理論研究により、この現象の背後には金属内部の電子が持つ「軌道角運動量(OAM)」という、全く異なるメカニズムが関与していることが明らかになってきた。
しかし、これを実証するのは容易ではなかった。従来のIFEによって、光誘起磁化で観測される多くの現象を説明できるため、OAMの寄与を特定するのは難しかった。さらに、光はスピン角運動量も生成し得るため、その効果とOAMによる効果とを切り分けることは困難であった。
AIMRの水上成美教授は、「これまで金属では、ヘリシティに依存したトルクが物質系に応じて異なるメカニズムで説明されてきました。例えば、バルク強磁性体ではIFE、多層膜構造ではスピンのオプティカルオリエンテーションがその起源とされています。私たちは、これまで報告例のない合金では何が起こるのかを明らかにしたいと考えました」と、説明する。
2025年、水上教授と抜井氏の研究チームは、光誘起OAMが磁化ダイナミクスに与える影響を探るため、強磁性合金の薄膜を用いて検証を行った1。
研究チームは、白金含有量によってスピン軌道相互作用(SOC)の大きさを調整できるコバルト/白金合金薄膜を選択した。まず、フェムト秒円偏光パルスによって誘起される磁化歳差運動の振幅と初期位相を精密に観測した。その後、光誘起トルクをフィールドライクトルク成分とダンピングライクトルク成分に分離し、それぞれをOAMに基づく理論モデルと比較した。
特に重要な結果として、白金含有量の増加とともにダンピングライクトルクの強度も増大することが確認された。これはSOCの増大と対応しており、OAMに基づく理論モデルによる予測ともよく一致していた。一方、従来のIFEでは、この現象をうまく説明できなかった。
測定結果からは、磁化の運動における変化も明らかになった。白金含有量が増加するにつれて、歳差運動の初期位相がゼロからπへと変化していった。これもモデルによる予測と一致しており、ダンピングライクトルクの支配的な影響が強まっていることを反映している。
「最も驚いたのは、OAMに基づくシンプルなモデルが、実験結果を再現したことです。これは、従来の実効磁場的な描像ではなく、SOCを介したOAMの移送こそが、観測された現象の本質であることを示しています。さらに、これまで別々に発展してきたスピンオービトロニクスとオプトマグネティズムという2つの分野の間に、深いつながりがあることも明らかになりました」と、水上教授は語る。
現在研究チームは、光誘起OAMの生成・緩和のメカニズムと、それが磁化へと転移する過程を統一的に説明する理論の構築に取り組んでいる。さらに、将来のデバイスにおける磁化のより高速かつ高効率な光制御の実現を見据え、異なる材料・温度・波長条件下でも同様の現象が生じるかを検証している。
A personal insight from Dr. Shigemi Mizukami
本研究で、最も達成感が得られたのはどの部分ですか?
最も達成感が得られたのは、当初は予想もしていなかった新たなメカニズムにたどり着けたことです。研究の初期段階では、得られた結果が自分の予想していた解釈と合致せず、戸惑いを感じていました。しかし、既存の枠組みにデータを無理に当てはめるのではなく、先入観を捨ててデータに向き合うことで、最終的にOAMという本質にたどり着くことができました。この経験を通じて、予期せぬ結果に直面しても、それを信頼して向き合うことの大切さを再認識しました。今後、本研究が、光と物質の間で角運動量がどのように受け渡されるのかという、より本質的な問いを解明するための手がかりになることを期待しています。
(原著者:Patrick Han)
Highlight article
- Nukui K., Iihama S., Ishibashi K., Yamashita S., Sakuma A., Scheid P., Malinowski G., Hehn M., Mangin S. and Mizukami S. Light-induced torque in ferromagnetic metals via orbital angular momentum generated by photon helicity Physical Review Letters 134, 016701 (2025). | DOI: 10.1103/PhysRevLett.134.016701
抜井 康起
博士後期課程学生(東北大学大学院工学研究科)
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。


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