炭素材料解析: 性能の鍵を握る窒素環境を超高温TPDで解き明かす
2025年12月22日
従来技術では観測できなかった窒素の結合状態を知る新たな分析技術
本研究を主導した吉井 丈晴准教授
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グラフェン、グラファイト、ナノダイヤモンドなどの炭素材料のうち、炭素原子の一部を窒素原子に置換した窒素ドープカーボンは、電池、燃料電池、センサーに使用される材料として注目を集めている。窒素ドープカーボンにおいては、窒素原子がどのように組み込まれるかによって触媒特性や電子特性が大きく左右されることから、性能向上のためには、窒素結合状態の定性的・定量的評価を行う手法のさらなる精緻化が求められている。
窒素種の分析手法としては、CHN元素分析やX線光電子分光法(XPS)といった分析技術がすでに普及しているが、前者ではバルク組成の定量データしか得られず、後者では表面近傍しか分析できないという問題が存在する。また、こうした方法では感度が限られており、特に窒素含有量が1,000 ppm未満の微量レベルでは、ピロール型、ピリジン型、グラファイト型といった異なる窒素環境を区別することが困難である。
そのため、微量窒素種分析のための正確かつ高分解能な新しい手法が開発できれば、窒素ドープ炭素材料の合理的な設計、ひいては窒素ドープ炭素材料に関連する長年の産業課題の解決につながると期待される。
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の吉井丈晴准教授、西原洋知教授らは2024年の論文で、この課題に対して新たな分析手法を提案した1。研究チームは、炭素試料を2,100℃まで加熱可能な真空昇温脱離法(TPD)を用いることで、炭素構造体からの窒素種の完全脱離を達成するとともに、発生したガス(NH3、HCN、N2)をこれまでにない高感度で測定することに成功した。
従来の非破壊分析法と異なり、TPDは破壊的な手法であることから、表面近傍だけでなくバルク中の窒素を完全に定量分析することが可能となった。
「我々の研究の革新的な点の一つは、超高温真空TPDシステムの分析モデル試料として、窒素がドープされた3次元グラフェン材料(N-CMS)を用いたことです。このN-CMSは、積層のない湾曲したグラフェンシートで構成されています。このモデル試料を用いることにより、加熱時に発生するガスと各窒素環境との直接的な相関関係を突き止めることができました」と吉井准教授は説明する。
密度汎関数理論モデリングを援用して、質量分析プロファイルを解析した結果、ピロール型窒素がNH3とHCNとして放出された後、続いてピリジン型窒素がHCNとN2として放出され、より高温域においてグラファイト型窒素からN2のみが生成されることが明らかとなった。
さらに、本技術は従来法より2桁高い感度を達成することを可能にした。本技術を用いることで、多様な炭素材料中の窒素を精密に定性・定量的に分析可能であり、XPSでは検出できなかった試料内部に深く組み込まれた窒素を捉えることにも成功した。
「窒素を含有する工業用コークスに本技術を適用したところ、1,200℃以上でのN2脱離のみを検出しました。これは窒素のほぼ全てが安定したグラファイト型で存在することを示すものであり、炭素構造の深部に埋もれていたため従来のXPSでは捕捉できなかった結果です」と、吉井准教授はこの研究の成果について語っている。
この研究で開発した超高温真空TPDは、炭素材料中の窒素化学を理解・制御できる革新的な手法であり、触媒、エネルギー貯蔵、材料製造など広範な影響を及ぼすことが期待される。
A personal insight from Dr. Takeharu Yoshii
この研究で最も達成感を感じた部分はどこでしょうか?その理由も教えてください。
炭素材料中の窒素ドーパントをTPDという破壊分析法で捉えることができた瞬間です。2,100℃という超高温での窒素種の完全脱離と定性・定量分析の達成は、これまで誰も成し遂げていなかったことです。この成果に到達するまでの道のりは困難の連続でした。超高温に耐える装置の設計、有毒なHCNガスの検量線の作成、同じ質量電荷比を持つCOとN2の信号分離など、解決すべき課題は山積みでした。数年にわたる試行錯誤の末、各窒素種を明確に分離して分析できることが分かった瞬間は、達成感に満ちたものでした。
(原著者:Patrick Han)
Highlight article
- Yoshii T., Nishikawa G., Kumar Prasad V., Shimizu S., Kawaguchi R., Tang R., Chida K., Sato N., Sakamoto R., Takatani K., Moreno-Rodriguez D., Škorňa P., Scholtzová E., Karoly Szilagyi R. and Nishihara H. Quantitative and qualitative analysis of nitrogen species in carbon at the ppm level Chem 10, 2450-63 (2024). | DOI: 10.1016/j.chempr.2024.03.029
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