量子計量: 実材料における電子状態の幾何学的性質の柔軟な制御

2025年11月25日

Mn3Sn/Ptヘテロ構造において常温常圧下で量子計量の制御を実証

本研究を主導したJiahao Han准教授

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研究者らは長年、「量子計量」という基本的な物理量の理解を目指してきた。量子計量は、固体中の電子状態が運動量空間でどのくらい急速に変化するかを測る指標であり、特異的な非線形応答やトポロジカル応答を引き起こすと予測されている。しかし、この隠れた波動関数の性質は常温常圧下では不安定であると考えられてきたため、実験的には未だ解明されていなかった。

AIMRのJiahao Han准教授は、「これまでの観測では量子計量の効果の兆候が見られていましたが、それはファンデルワールス磁性体、液体ヘリウム冷却、および数テスラの磁場を必要とする条件下でのみでした」と、説明する。

2024年、Han准教授率いる研究チームは、カイラル反強磁性体であるマンガン・スズ合金(Mn3Sn)を白金(Pt)で覆ったヘテロ構造を作製し、常温常圧下で量子計量が検出できるだけでなく、制御可能であることを実証した1。界面のスピン構造が、下層の量子計量を制御する鍵であった。

「本研究の新規性は、Mn3Snを薄いPt層で覆うことで、空間反転対称性と時間反転対称性の両方を破る界面スピン構造を設計した点にあります。この対称性の破れにより、量子計量の効果が電気測定において明確に現れるようになりました」と、Han准教授は語っている。

研究チームは、ヘテロ構造における非線形ホール効果の信号を追跡することで、量子計量が時間反転対称性を破る二次ホール効果として現れることを示した。特筆すべきは、この信号が極低温から室温を大きく超える広い温度範囲にわたって安定であり、小さな外部磁場で可逆的に切り替えられる点である。これにより、量子計量を柔軟に制御できることが実証された。

「この成果の重要性は、実際の物質において量子幾何学を活用する実用的な道筋を確立した点にあります。常温常圧下で量子計量を制御できるようになったことで、トポロジカルエレクトロニクスにおける新たな可能性が開かれます。具体的には、低消費電力メモリや論理素子からセンサーや整流器に至るまで、電子の電荷やスピンだけでなく幾何学的性質を利用するデバイスの開発が期待されます」と、Han准教授は説明する。

今後は本研究のアプローチを用いて、フラットバンド系やトポロジカル系における非従来型超伝導を探索するとともに、量子幾何学の他の側面が輸送現象や実際のデバイスへの応用に及ぼす影響を解明していく予定である。

A personal insight from Dr. Jiahao Han

最も達成感を得たのは、Mn3Sn界面を利用して、空間反転対称性と時間反転対称性を同時に破るスピン構造を設計するというアイデアを考案した瞬間でした。このアプローチは、二次ホール効果において量子計量を可視化するために不可欠であり、材料科学、スピントロニクス、および幾何物理学の知見を革新的手法で融合させたものです。

最も印象的だったことは、理論的な予測が実験で完璧に再現されたことです。カイラル反強磁性体についての知見が、これほど鮮明に実験データとして現れたことに、驚きというより大きな手応えを感じました。

(原著者:Patrick Han)

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  1. Han J., Uchimura T., Araki Y., Yoon J.-Y., Takeuchi Y., Yamane Y., Kanai S., Ieda J., Ohno H. and Fukami S. Room-temperature flexible manipulation of the quantum-metric structure in a topological chiral antiferromagnet Nature Physics 20, 1110-1117 (2024). | DOI: 10.1038/s41567-024-02476-2

Jiahao Han

准教授

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。