錯体水素化ホウ素化合物: 陰イオンの再配向を制御する要因の解明
2024年08月26日
分子動力学シミュレーションによる室温高速イオン伝導材料の実現
錯体水素化ホウ素化合物(CBHs)は、全固体電池(ASSBs)用の有望な電解質材料として期待されている。実用化するには、相転移温度を室温まで下げ、LiイオンおよびNaイオンの伝導率を10−1 S cm–1まで向上させる必要がある。
一般的に、CBHsの高伝導相では陰イオンの回転運動が観察される。そのため、陰イオンの再配向に影響を与える要因を解明できれば、次世代の室温高速イオン伝導の設計を大きく進歩させることができる。
AIMRのSau特任講師は、「最近の実験や第一原理分子動力学法(FPMD)を用いた研究により、CBHの陰イオンの再配向運動を捉えようと試みました。しかしながら、実験の適用範囲やFPMDの時間スケールには限界があり、それらを完全に捉えることはできませんでした」と、語る。
2021年、Sau特任講師の研究チームは力場をベースとした分子動力学シミュレーションを使用することでこれらの制約を克服し、Li2B12H12とLiCB11H12系について詳しく調査した1。この戦略により、構造的、動的挙動を正確に再現し、エントロピー駆動型の秩序無秩序転移と陰イオンの再配向運動を捉えることに成功した。この成果は、従来の実験やFPMDからのアプローチでは達成することが困難であった。
「この研究成果により、CBH相転移における陽イオンサイズの役割2や、CBHの巨大な圧力熱量効果(圧力を加えると温度が変化する性質)3における陽イオン拡散の重要性など、次世代のASSBや固体冷却・加熱材料の設計に関わるさまざまな要因を明らかにすることができました」と、Sau特任講師は説明する。
研究チームは現在、効率的で環境に優しい冷却ソリューションを開発するため、クロソボレート化合物やその他の無秩序な材料の圧力熱量特性に焦点を当てて研究を進めている。
(原著者:Patrick Han)
References
- Sau K., Ikeshoji T., Kim S., Takagi S. and Orimo S. Comparative Molecular Dynamics Study of the Roles of Anion–Cation and Cation–Cation Correlation in Cation Diffusion in Li2B12H12 and LiCB11H12 Chemistry of Materials 33, 2357–2369 (2021) | article
- Sau K., Takagi S., Ikeshoji T., Kisu K., Sato R. and Orimo S. The role of cation size in the ordered-disordered phase transition temperature and cation hopping mechanism based on LiCB11H12 Materials Advances 4, 2269-2280 (2023). | article
- Zeng M., Escorihuela-Sayalero C., Ikeshoji T., Takagi S., Kim S., Orimo S., Barrio M., Tamarit J., Lloveras P., Cazorla C. and Sau K. Colossal reversible barocaloric effects in a plastic crystal mediated by lattice vibrations and ion diffusion Advanced Science (2024). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。