数値線形代数: ハイパフォーマンス・コンピューティングにおける新たな通信隠蔽技術

2023年10月23日

大規模線形方程式を解くための通信コストの低い反復法の開発

研究について議論するHuynh助教(左)と水藤教授(右)

構造解析、画像・信号処理、流体力学などの科学的・工学的課題の多くは、連立線形方程式 Ax = bA: 大次元で疎な係数行列、b: 既知ベクトル、x: 未知ベクトル)を解くことに帰着される。これらの方程式を短時間で正確に解くためには、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)システムが求められる。

しかしながら、HPCの演算能力の向上は重大なジレンマを孕んでいる。それは、プロセッサの数が多いほど、複雑な問題をより効率的に解決できる可能性が高まるが、通信や同期に関するタイムラグが発生しやすくなるということである。

この課題を解決すべく、AIMRのHuynh助教と水藤教授は、2023年の論文において、パイプラインBiCGStab法(p-BiCGStab)と単一同期BiCGSafe法(ssBiCGSafe)を組み合わせた新たな手法を提案した1。この手法は、反復ごとに1回の大域的な縮約しか行わないことで通信遅延(レイテンシ)を隠蔽し、それぞれの手法のメリットを継承・融合することで、HPCシステムにおいて優れた性能を示すことができる。

研究チームは「従来のp-BiCGStabやssBiCGSafeによる手法と比較して、今回新たに開発した手法では、収束挙動と実行時間の両方が大幅に改善されることが数値計算により明らかとなりました。将来的には、スーパーコンピュータを使った大規模な流体の数値シミュレーションのような幅広く複雑な問題に対応できる、より普遍的なアルゴリズム開発に貢献するものと期待しています」と、成果についてコメントしている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Huynh, V.Q.H. & Suito, H. Communication-hiding pipelined BiCGSafe methods for solving large linear systems Applied Mathematics and Computation 449, 127868 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。