有機半導体: 新たな分子ダイナミクスの解明に向けた挑戦

2023年07月24日

次世代の有機半導体設計の鍵を握る分子動力学の乱れ

研究を主導した瀧宮教授。研究室には最新の機器がズラリと並んでいる。

有機半導体(OSC)研究においては、従来から常識とされてきた「静的な結晶格子中で電荷移動が生じる」という定説を覆す新たな知見が徐々に浸透している。

近年の研究の進展により、OSCの多くは低温であっても結晶中で高度な分子運動を行っていることが明らかとなっている。この分子の動的な乱れ(ダイナミック・ディスオーダー)は局所的な電荷移動や全体の電子特性に影響する可能性が示唆されている。そのため、この詳細を解明することが高性能なOSCを開発する上での課題の1つであった。

2022年AIMRの瀧宮教授らは、ダイナミック・ディスオーダーが物質の電子構造に大きく影響することを実証した。本研究グループは、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)の2つの位置異性体を対象とし、単結晶電界効果トランジスタ(SC-FET)を用いたキャリア移動度の測定とバンドライクモデルを用いた分子動力学(MD)シミュレーションを行った。その結果、OSCの電荷輸送特性は分子運動に対する感受性と相関することを見出した。

研究を主導した瀧宮教授は、「薄膜FETや静的ホッピングモデルといった従来のアプローチでは、キャリア移動度の面でも、ダイナミック・ディスオーダーの面でも、DNTTの2つの位置異性体を区別することはできませんでした。今回の結果は、明らかになりつつある分子ダイナミクスの新たな性質の存在を裏付けるだけでなく、次世代の高性能なOSCを設計するための補完的なツールとして、MDシミュレーションが有用であることを示唆しています」と、コメントしている。

現在、瀧宮教授の研究チームはターゲットとなるOSCの分子構造のみを用いて、ダイナミック・ディスオーダーなどの固体物性を解析できる結晶構造シミュレーションの開発に取り組んでいる。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Takimiya, K., Bulgarevich, K., Horiguchi, S., Sato, A. & Kawabata, K. Bandlike versus temperature-independent carrier transport in isomeric diphenyldinaphtho[2,3‑b:2′,3′‑f ]thieno[3,2‑b]thiophenes. ACS Materials Letters 4, 675-81 (2022). | article

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