非晶質材料: ガラス転移現象解明への挑戦

2023年04月24日

形成過程における構造変化を可視化するための研究戦略

液体-過冷却液体の遷移をMDシミュレーションするLouzguine教授

非晶質材料やガラス材料はユニークな構造を形成しており、原子配列が長距離の規則性を持たないことから、優れた機械的、化学的、生物学的、磁気的特性を有している。一方で、このような構造上の特徴は、ガラス転移や過冷却に伴う液体の構造変化など、非晶質材料の形成過程に対する理解を難しくする要因でもある。

2022年にAIMRのLouzguine教授とインペリアル・カレッジ・ロンドンのOjovan客員教授が発表した論文に代表されるように、近年、液体のガラス転移に関する研究は非常に大きな進歩を遂げている1。本論文では、コンフィギュロン(切断されたCu-Cu結合)の観点から分子動力学シミュレーション、理論計算、X線回折を組み合わせることで、冷却時のCu溶融体の構造変化を説明している。この新たな研究アプローチにより、加熱時のCuのガラス状態から過冷却液体への逆転移の際、コンフィギュロンの浸透が起こることが明らかになった。

2022年の論文以降、Louzguine教授らは液体のフラジリティ(液体粘度の非アレニウス温度依存性)の解明に焦点を当て、この手法を一般的な金属ガラス形成液体の構造変化にまで拡張した2。現在は、過冷却時の液体の構造変化を用いて、ガラス形成液体のフラジリティを説明する研究に取り組んでいる。

一連の研究を主導しているLouzguine教授は「物性物理学において、液体がどのようにしてガラス転移を引き起こすのかは、いまだに強い関心を集めている研究課題の1つです。このプロセスを可視化できるブレークスルーが実現できれば、液体のフラジリティなど他の現象に対する理解も容易になり、特性を制御した非晶質材料の作製が可能となります」と、今後の進展を語っている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Ojovan, M.I. & Louzguine-Luzgin, D.V. On structural rearrangements during the vitrification of molten copper. Materials 15, 1313 (2022). | article
  2. Louzguine-Luzgin, D.V. Structural changes in metallic glass-forming liquids on cooling and subsequent vitrification in relationship with their properties. Materials 15, 7285 (2022). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。