モットロニクス: 室温でも安定な2次元モット絶縁体を発見

2022年01月31日

低次元化によりモット転移温度を上げることに成功

単層1T-TaSe2の価電子帯ARPES強度をΓM軸に沿って示したもの。「LHB」および「CDW」はそれぞれlower Hubbard band(下部ハバードバンド)およびcharge density wave(電荷密度波)の略。

© 2021 Takafumi Sato

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)が率いるチームは、単層2セレン化タンタル(1T-TaSe2)において、室温でも安定な2次元(2D)構造のモット絶縁体相を発見した1。また、角度分解光電子分光(ARPES)を用いて電子構造を解明した結果、モット転移温度の上昇は新奇な量子物性と低次元構造の相互作用に起因することが分かった。これは、室温でのモットロニクス・デバイスおよび高温超伝導体の実現への道を拓く知見である。

超伝導はドープ型銅酸化物(T < 200 K)や傾斜2層グラフェン(T ~ 1 K)などの複雑な構造内で発生する。ハバードモデルによると、こうした超伝導はモット絶縁体と関連している。モット絶縁体とは、物質の電子相関(U)が部分的に充填されたバンドの幅(W)をはるかに上回った時に発生する状態を指す。

またハバードモデルによると、モット転移は物質の状態(温度、圧力、ドーパントなど)により物質の有効クーロン相互作用(U/W)が最大になった時に生じる。これは、低次元化によってU/W比を最大化する手法が、室温でのモット転移の実現に適用できる可能性があることを意味する。

そこで研究チームは、1T-TaSe2などの2次元遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を用いて、この手法を実証した。

「3次元1T-TaSe2では低温度(T < 200 K)でモット転移が起こるため、2次元化することによりU/Wの比率を引き上げ、モット転移の温度を上げることができるはずです」と、AIMR主任研究者の佐藤宇史教授は実験の原理を説明する。「問題は、この可能性をテストする種々の実験のデザインです」。

研究チームは、ARPESやSTMなどの分光技術を組み合わせ、U/Wが決定している電子特性の観察をおこなった。モットギャップと電荷密度波(CDW)ギャップをT = 40Kで観察したところ、2次元1T-TaSe2がモット絶縁体であることが示唆された。また、その下部ハバードバンドをT = 450 Kまで温度を上げて観察したところ、このモット絶縁体相は室温およびそれ以上の温度においても強固であることが分かった。

「2次元構造で、室温でも安定なユニークなモット絶縁体相を発見することができました。これは、UがCDWなどのエキゾチックな特性によって強化される一方、Wは2次元構造のため減少する、という絶妙なバランスがあって初めて生じるものです」と佐藤教授は説明する。

チームは今後、2次元TMDを使ってモット絶縁体が室温で金属相へ転移することを実証し、さらに高温超伝導発現を観測することを目指す。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Nakata, Y., Sugawara, K., Chainani, A., Oka, H., Bao, C., Zhou, S., Chuang, P.-Y., Cheng, C-.M., Kawakami, T., Saruta, Y., Fukumura, T., Takahashi, T. & Sato, T. Robust charge-density wave strengthened by electron correlations in monolayer 1T-TaSe2 and 1T-NbSe2. Nature Communications 12, 5873 (2021). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。