数理モデル:グラフェンの形状と特性の関係が明らかに

2021年10月25日

数学手法を用いて最適な材料設計を導き出す

位相欠陥によって湾曲したグラフェンの断面写真。

© 2021 Motoko Kotani

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の数学者を中心とする研究チームは、グラフェンの幾何学情報を利用して、グラフェンに欠陥を導入することで触媒機能を活性化する際の最適構造を幾何学的に明らかにするために、標準実現に相互作用を付加した数理モデル「改善型標準実現」を開発した1。更に、従来の密度汎関数理論と改善型標準実現モデルを相補的に組み合わせることで、グラフェンの構造特徴と機能を予想し、実験的に作製した3次元グラフェンで予測された構造特徴と機能がほぼ一致していることを実証した。

科学者たちはグラフェンのハニカム構造を幾何学的に変形することでどのような優れた機能が生じるのか、その機構解明に取り組んでいる。

例えば、グラフェンにトポロジカル欠陥を導入すると、グラフェンのハニカム構造が変形し、その触媒特性が向上することが知られている。しかしながら、この構造の変形と触媒活性にどのような相関があるのかは明らかになっていなかった。

そこで研究チームは、グラフェンに導入した欠陥と隣接する炭素原子との間の引力相互作用と反発相互作用を考慮した数理モデルである改善型標準実現を開発し、対象となるネットワークモデルを単純化するとともに、グラフェンのトポロジカル欠陥によって引き起こされる曲面構造と触媒特性の関係を予測した。

筑波大学の伊藤良一准教授は、「今回開発した手法は、既存の数理モデル2を改良してグラフェンをはじめとするネットワーク構造の幾何学的変化を数値化し、その特性を調べるものです」と説明する。「本研究で得られた標準実現モデルは、幾何学構造と材料特性の関係性について新たな知見をもたらすものです」。

改善型標準実現モデルによって再現された構造は、密度汎関数理論によって得られた構造と定性的に一致するだけでなく、従来法と比較して格段の速さでシミュレーション結果が得られる。

さらに、研究チームはこの結果の重要性を実証するために、トポロジカル欠陥を含んだ曲面を持つグラフェンを実験的に合成し、走査型電気化学セル顕微鏡を用いて、幾何学構造と触媒特性との相関を実空間で対応付けを行い、改善型標準実現で予測された結果と同様であることを実証した。

AIMRの主任研究者である小谷元子教授は、「新たに構築した数理モデルの手法は、幾何学的な記述子を用いることで、材料科学者の直感にあう構造と機能の関係の理解を数値化するものであり、本手法と従来手法を相補的に組み合わせた高度化したスクリーニングにより様々な材料開発が飛躍的に進むと期待しています」と述べている。

研究チームは今後、改善型標準実現を用いてマッカイ結晶をはじめとする様々なカーボンネットワークの構造と物性の関連性も調べる予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Dechant, A., Ohto, T., Ito, Y., Makarova, M. V., Kawabe, Y., Agari, T., Kumai, H., Takahashi, Y., Naito, H. & Kotani, M. Geometric model of 3D curved graphene with chemical dopants. Carbon 182, 223-232 (2021). | article
  2. Kotani, M. & Sunada, T. Standard realizations of crystal lattices via harmonic maps. Transactions of the American Mathematical Society 353, 1-20 (2001). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。