粒界構造: 最先端の電子顕微鏡法と理論計算で特異機能の起源に迫る

2021年07月26日

相乗的アプローチで複雑な原子構造を解明する

理論計算でTiO2双結晶中の界面構造を調べた(上部と下部はHAADF STEM像)。中央の灰色と赤色の球は、それぞれチタンと酸素原子を表している。

© 2021 Yuichi Ikuhara & Chris J. Pickard

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)、東京大学、ヨーク大学、ケンブリッジ大学の研究者らが協力し、結晶粒界の構造を探索する新しいアプローチの有効性を実証した1。研究チームは、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)と第一原理ランダム構造探索法(AIRSS)を組み合わせて、ルチル型二酸化チタン(TiO2)中にアナターゼ型TiO2の性質を有する粒界を発見した。この手法の成功は、セラミック材料における原子構造と機能特性の相関性を解明する上で重要な一歩となるものである。

結晶粒界は、TiO2などのセラミック材料をはじめとした固体に存在する結晶同士の界面であり、原子配列の乱れから単結晶にはない原子構造を有する。そのため、粒界近傍では異種元素の偏析、不均一な電荷分布、粒界移動など多くの特異な電気的・力学的性質を示し、原子構造を制御することで、巨視的レベルで新しい機能特性を発現する可能性があると期待されている。

しかしながら、高解像度の2次元イメージングと理論計算による原子構造の最適化を組み合わせた従来のアプローチでは、単純な粒界構造を解明することはできても、より興味深い現象を引き起こす複雑な粒界構造を決定することは困難だった。

そこで、AIMRの幾原雄一教授とChris Pickard教授、ならびにヨーク大学のKeith McKenna教授が率いるチームは、相乗的なアプローチを用いて、効率的に粒界構造の探索範囲を拡張した。研究チームは、まずルチル型TiO2双結晶を作製し、原子分解能STEMを用いて観察を行なった。続いてAIRSSを使用して粒界構造の再現に取り組んだ。

「最初に行った局所的なエネルギー最小化法では、STEM観察および電子エネルギー損失分光法(EELS)の測定結果と一致する構造は見出せませんでした」とMcKenna教授は言う。「そこで、大域最適化法であるAIRSSを適用し、より複雑な粒界構造を明らかにしました」。

研究チームは、AIRSSによって予測された粒界構造は2次元STEM像を再現するだけでなく、実験で得られたEELSの測定結果を再現することにも成功した。その結果、粒界近傍の化学組成分布とそれに伴う電子状態が、アナターゼ型TiO2結晶に非常に類似することを示した。これは、従来のモデリングアプローチでは、得られなかった成果である。

「この研究は、複雑な粒界構造の決定が容易になる可能性を示しています」とケンブリッジ大学のGeorg Schusteritsch助手(当時)は説明する。「今後、粒界構造の解明を起点として、様々な機能特性を制御した次世代の材料設計にも役立てたいと考えています」。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Schusteritsch, G., Ishikawa, R., Elmaslmane, A. R., Inoue, K., McKenna, K. P., Ikuhara, Y. & Pickard, C. J. Anataselike grain boundary structure in rutile titanium dioxide. Nano Letters 21, 2745-2751 (2021). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。