リチウム電池: 固体電解質として有望な錯体水素化物

2019年05月27日

全固体リチウム電池の電解質としてほぼ理想的な特性の組み合わせを持つ水素化物が設計された

2種類の水素クラスターを持つ錯体水素化物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウム金属負極に対する安定性に優れている。
2種類の水素クラスターを持つ錯体水素化物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウム金属負極に対する安定性に優れている。

© 2019 Shin-ichi Orimo

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者が新しい水素化物を開発した1。この材料は、最終的には全固体リチウム電池の実現につながる可能性があり、現在広く使われているリチウムイオン電池に代わる高性能電池の開発にしのぎを削る科学者たちに、進むべき新しい道を開くものである。

リチウムイオン電池は、スマートフォンから電気自動車まで、幅広い製品に電気を供給するために利用されているが、エネルギー密度の低さ、液体電解質の漏出、発火のおそれなどの欠点がある。これら三つの問題点は、液体電解質を固体電解質に置き換えることで克服できる可能性がある。

金属リチウムはそうした全固体電池の負極に最適な材料であるが、既存の固体電解質はリチウムと不要な副反応を起こすため、負極と電解質の間の界面抵抗が高くなる。充放電を繰り返すうちに電池性能が悪化していくのは、そのためだ。

錯体水素化物は、金属カチオンと、水素を含んだ分子状の錯イオン(水素クラスター)からなる無機化合物である。錯体水素化物はリチウムとの副反応を起こさないという長所をもつが、リチウムイオン伝導率が低いという短所もある。

今回、東北大学金属材料研究所(IMR)の金相侖(Sangryun Kim)助教は、IMRおよびAIMRの共同研究者とともに、高いリチウムイオン伝導率と、リチウム金属負極に対する高い安定性(すなわちリチウム金属負極と反応しない性質)を兼ね備えた錯体水素化物を開発した。

「錯体水素化物が、実用的なリチウム金属を用いる全固体電池に適した固体電解質となることが初めて示されました」と金助教は強調する。「驚くことに、今回の錯体水素化物とリチウム金属負極の間の界面抵抗は非常に小さいことがわかりました。つまり、リチウムイオンは負極と電解質の間をほとんど邪魔されずに自由に動くことができるのです」。

今回の錯体水素化物は水素クラスターの構造を調節することによって開発されたもので、炭素原子1個とホウ素原子9個を含んだ錯イオン[CB9H10]-が70%と、炭素原子1個とホウ素原子11個を含んだ錯イオン[CB11H12]-が30%の混合物からなる(図参照)。

金助教は、「この材料は全く新しいタイプの固体電解質です」と言う。「今回の研究結果が刺激となって錯体水素化物系リチウム超イオン伝導体を探索する取り組みが始まるとともに、固体電解質材料分野に新たなトレンドが生まれ、高エネルギー密度電気化学デバイスの開発につながればよいと考えています」。

研究チームは今後、電解質をさらに改良する予定である。金助教は今後の計画について、「研究対象になり得る錯体イオンは、ほかにも数多く存在しています。今回の成果を第一歩として系統的に研究を進め、さらに良好なリチウムイオン伝導率とリチウム金属負極に対する安定性を示す錯体水素化物を作製したいと考えています」と語る。

References

  1. Kim, S., Oguchi, H., Toyama, N., Sato, T., Takagi, S., Otomo, T., Arunkumar, D., Kuwata, N., Kawamura, J. & Orimo, S. A complex hydride lithium superionic conductor for high-energy-density all-solid-state lithium metal batteries. Nature Communications 10, 1081 (2019). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。