ブロック共重合体: 貝の接着物質をヒントにした磁気光学膜

2018年08月27日

イガイの足糸に見られるタンパク質の多機能性を模倣することにより、有用な磁気光学特性を示すハイブリッド膜が作製された

AIMRの藪浩准教授のチームが開発したジブロックポリマーは、赤色の帯で図示するポリ(ビニルカテコール)と、青色の帯で図示するポリスチレンという、二つの構成要素からなっている。ポリ(ビニルカテコール)中に導入された酸化鉄ナノ粒子(金色の球)と銀ナノ粒子(銀色の球)が、この膜に特殊な磁気光学特性を付与している。
AIMRの藪浩准教授のチームが開発したジブロックポリマーは、赤色の帯で図示するポリ(ビニルカテコール)と、青色の帯で図示するポリスチレンという、二つの構成要素からなっている。ポリ(ビニルカテコール)中に導入された酸化鉄ナノ粒子(金色の球)と銀ナノ粒子(銀色の球)が、この膜に特殊な磁気光学特性を付与している。

許可を得て参考文献1より改変。Copyright 2018 American Chemical Society

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らは、イガイが岩の表面などに付着する際に用いる強力な接着タンパク質に着想を得て、プラズモニックナノ粒子と磁性ナノ粒子を埋め込んだポリマー膜の作製法を考案した1。このハイブリッド膜は、磁場イメージングや磁気光学デバイスへの応用が期待できる。

イガイは多種多様な物質に付着できることで知られる。これを可能にしているのが、イガイの足糸から分泌される強力な接着タンパク質である。この接着タンパク質は、強い接着特性と化学還元特性を持つカテコール基を主な官能基とする。

今回AIMRの藪浩准教授らは、このカテコール基をジブロックポリマーに導入した。ジブロックポリマーとは2種類の構成要素AとBがフィルム中でABABAB...のように交互に配列するポリマーのことで、研究チームは今回、構成要素としてポリ(ビニルカテコール)とポリスチレンを用いた。「私たちが研究を始める前には、カテコール基を持つジブロック共重合体は、わずかしか報告されていませんでした。カテコール基がラジカル重合を阻害するからです」と藪准教授は説明する。

研究チームは次に、カテコール基の多機能性をうまく利用した2段階プロセスを用いて、ジブロックポリマーに酸化鉄ナノ粒子と銀ナノ粒子を順次形成した(図参照)。カテコール基は金属や金属酸化物と強く相互作用するため、この作用により酸化鉄ナノ粒子の導入が可能となる。一方、銀ナノ粒子の導入を可能にしたのは、カテコール基の還元特性であり、それにより銀イオンから銀ナノ粒子が形成される。

酸化鉄ナノ粒子と銀ナノ粒子の組み合わせから、このハイブリッドポリマーは興味深い特性を持つ。まず、酸化鉄ナノ粒子は磁気光学カー効果(magneto-optical Kerr effect;MOKE)を示す。これは、物質の磁気的特性によってその物質の表面反射光の特性が変わる効果であり、物質の局所磁化を探る有効な手段となる。そして、プラズモニックナノ粒子である銀ナノ粒子が、近傍の電磁場を強めることでMOKEを増強するのだ。

「MOKEは、磁気メモリーデバイスや将来のスピントロニクスデバイスに用いられます。今回の2成分ナノ粒子集合系では、磁性ナノ粒子とプラズモニックナノ粒子の共集合によってMOKEシグナルが増強され、高密度・高感度磁気デバイスの実現に向けた道が開かれました」と藪准教授。

さまざまな組み合わせのナノ粒子を導入することによって、膜の応用は大きく広がる可能性がある。藪准教授は、イガイに着想を得た今回のジブロック共重合体薄膜は、各種機能性ナノ粒子を取り入れた規則的なハイブリッド膜の開発において有望なプラットフォームとなると期待している。

藪准教授はまた、今回の膜の開発にはAIMR の学際的な環境が不可欠だったと強調する。「本研究は、AIMRの高分子科学、無機ナノ粒子、スピントロニクス分野の三つの研究室の『融合研究』がもたらした重要な成果です」。

References

  1. Komiyama, H., Hojo, D., Suzuki, K. Z., Mizukami, S., Adschiri, T. & Yabu, H. Binary nanoparticles coassembly in bioinspired block copolymer films: A stepwise synthesis approach using multifunctional catechol groups and magneto-optical properties. ACS Applied Nano Materials 1, 1666−1674 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。