磁性材料: 結晶界面の原子構造によって磁性が決まる

2018年06月25日

磁鉄鉱における結晶界面の原子構造と磁性との関係が初めて明らかになった

磁鉄鉱中で隣接する二つの結晶の磁性を、走査型透過電子顕微鏡による微分位相コントラスト法で観察した像。図中央の界面の左右で磁性は反平行になっている(緑色と青色の矢印で示す)。
磁鉄鉱中で隣接する二つの結晶の磁性を、走査型透過電子顕微鏡による微分位相コントラスト法で観察した像。図中央の界面の左右で磁性は反平行になっている(緑色と青色の矢印で示す)。

参考文献1より許可を得て転載。Copyright 2018 American Chemical Society.

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の幾原雄一教授が率いる研究チームが、古くから知られる磁性材料に新たな光を投げかけた1。最新の電子顕微鏡法と理論計算を併用することで、磁鉄鉱の結晶界面の磁性が界面近傍の原子配列にのみ依存することを示した。これは、先進的磁気デバイスの開発に弾みをつける重要な発見だ。

多くの磁性材料は、磁化の向きが異なる微結晶がモザイク状に配列してできている。既知の磁性材料の中で最も古い磁鉄鉱(四酸化三鉄、Fe3O4)は、その典型的な例である。結晶界面の原子配列が結晶の磁性とどのように関係しているのか明らかにすることは、材料科学における長年の問題であった。しかし、原子配列と磁性の両者を同時に正確に測定するのは技術的に極めて困難だった。

同研究チームの陳春林(Chunlin Chen)准教授らは今回、最先端の走査型透過電子顕微鏡法と微分位相コントラストイメージングを組み合わせて磁鉄鉱における電場と磁場を測定することにより、原子配列と磁性の同時測定に成功した。

研究チームは、これらの手法を用いて、磁鉄鉱の「双晶」という特殊な結晶界面を詳細に調べた。双晶は、界面を挟んで片側の原子配列が反対側の原子配列の鏡像となるような結晶界面である。第一原理計算を併用した解析の結果、界面近傍の原子配列に依存して、双晶の両側の結晶領域の磁性が平行(強磁性)または反平行(反強磁性、図参照)のいずれかになり得ることが見いだされた。

これは予期せぬ発見だった。「双晶の磁気結合が、界面からわずか数原子層内のコア原子構造と、それに起因する電子構造だけに依存していたことには驚きました」と陳准教授は言う。「それまでは、界面から離れた原子の影響も重要だろうと考えていたからです」。

今回の発見は、磁気学と磁性材料学にとって重要な意味がある。この分野では、個々の界面において原子構造と磁気結合の間に1対1対応を確立することが長く望まれていたからだ。

陳准教授は、今回の知見は現実の応用に役立つと考えている。「界面の微細構造を操作することで、磁性多層膜の磁気特性を調節できることがわかったからです。これにより高性能デバイスの開発に弾みがつくでしょう」。

研究チームは今後、磁鉄鉱中の様々な結晶界面における磁気結合を系統的に調べることで、磁性材料における原子・電子構造と磁気特性との相関を記述する一般則を確立したいと考えている。

References

  1. Chen, C., Li, H., Seki, T., Yin, D., Sanchez-Santolino, G., Inoue, K., Shibata, N. & Ikuhara, Y. Direct determination of atomic structure and magnetic coupling of magnetite twin boundaries. ACS Nano 12, 2662−2668 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。