化学: 九つもの水素に囲まれた金属
2017年08月29日
金属中心の周りに九つもの水素原子を結合させた新しい化合物は、水素ガスの貯蔵材料や電池の構成要素などの用途が見込まれる
一つの金属原子が九つもの水素原子に囲まれている4種の化合物が、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者によって合成された1。これらの化合物は、いずれも水素貯蔵材料や電池の構成要素として役立つ可能性があり、一つは超伝導を示す可能性もある。
金属が九つもの水素と配位結合することは、極めてまれである。これまで、水素9配位錯体を形成することが知られていた金属はレニウムとテクネチウムの2種だけで、それ以外の金属については、九つ未満の水素との結合しか知られていなかった。
AIMRの折茂慎一教授の研究室に所属する高木成幸准教授らは、熱力学計算と電子分布計算を用いて、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタルという4種の金属が九つの水素原子と結合できることを予測した。
研究チームは、金属粉末と水素化リチウムを混ぜてペレット状に成型した後、水素ガスを用いて非常に高い圧力をかけ、最長で2日間700℃付近で加熱することによって、錯体水素化物を合成した。そして、生成物を単離した後、中性子回折やラマン分光法などの手法を用いて特性評価を行った。
分析の結果、個々の金属原子は九つの水素原子に囲まれており、四角面三冠三角柱という配位構造になっていることが明らかになった。これは、研究チームの予測と一致している(図参照)。これらの金属水素化物は一つのユニットになって規則正しい結晶格子を形成し、リチウム原子と水素原子がユニット間の隙間を埋めている。このような配置を持つ化合物の水素密度は非常に高く、有望な水素貯蔵材料となる。「次の目標の一つは、新物質の優れた水素貯蔵特性を実験で実証することです」と高木准教授は言う。
今回得られた新物質はすべて電気絶縁体であるが、研究チームの計算によると、モリブデン錯体水素化物は、圧力をさらに高くすると金属的になり、電流が流れるようになる可能性がある。それだけではない。高木准教授は、このような条件下で電子が動けるようになるのであれば、物質は比較的高い温度で超伝導体になるかもしれないと考えている。
計算からは、モリブデン化合物中の金属水素化物ユニットが回転できることも示され、隙間を埋めるリチウムイオンが結晶内部で動くことで、電気を通せる可能性があることを示唆している。高木准教授によると、最近、第一原理分子動力学計算を行い、この物質のリチウムイオン伝導を検討したところ、現在知られているリチウムイオン伝導体を超える非常に高い伝導性を示すことがわかったという。
研究チームは、このリチウムイオン伝導の出現を実験で確認したいと考えている。高木准教授は、「この確認ができたら、今回の水素化物を固体電解質として用いて、全固体リチウムイオン電池を組み立ててみたいと思います」と言う。「今後も、水素を高密度に含む物質を探索し続けます」。
References
- Takagi, S., Iijima, Y., Sato, T., Saitoh, H., Ikeda, K., Otomo, T., Miwa, K., Ikeshoji, T. & Orimo, S. Formation of novel transition metal hydride complexes with ninefold hydrogen coordination. Scientific Reports 7, 44253 (2017). | article
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