超伝導: 分子の「のり」で電子の不安定性を克服

2017年04月28日

多数の炭素が結びついたナノサイズの球状分子からなる超伝導体中の電子のペアは、強磁場をかけても壊れない

C<sub>60</sub>フラーレン(サッカーボール型の大きな分子)と金属イオン(赤色と緑色で示した小さな球)でできた非従来型超伝導体は、既知のどの立方晶物質よりも強い磁場に耐えることができる。
C60フラーレン(サッカーボール型の大きな分子)と金属イオン(赤色と緑色で示した小さな球)でできた非従来型超伝導体は、既知のどの立方晶物質よりも強い磁場に耐えることができる。

© 2017 Kosmas Prassides

超伝導体の多くは金属原子でできており、通常、極めて低い温度にしないと電気抵抗がゼロにならない。今回、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者と、東京大学と京都大学の共同研究者らは、「バッキーボール」とも呼ばれる風変わりな分子フラーレン(C60)が、より現実的な条件で超伝導になることを示した1

超伝導転移温度より低い温度では、超伝導体の電子は強い引力を受けてクーパー対と呼ばれるペアを形成し、エネルギーを失うことなく電荷を運ぶ。しかし、クーパー対の形成は、外部磁場などによって妨げられることがある。この性質は、強い磁場の下で動作するデバイスや大電流が流れるデバイスに超伝導素子を組み込むことを困難にするため、超伝導体の用途を制限する。

AIMRのKosmas Prassides教授は、「臨界磁場は、超伝導体におけるペア形成相互作用を反映しています。二つの電子を結びつける『のり』の強さを表すと言えばよいでしょう」と説明する。「超伝導研究における究極の目標の一つは、磁場の方向にかかわらず、実用磁場の下で磁石の影響を受けない超伝導体を見つけることです」。

Prassides教授らは、最近、炭素原子からなる中空の球状分子フラーレン(C60)が、この問題に答えを与える可能性があることを発見した。C60とセシウムイオンに立方晶を形成させたときには、C60は絶縁体だ。しかし、外部からアンビルプレスで圧縮したり、格子内部の原子を置換したりして結晶に圧力をかけると、超伝導体へと変化する。この状態に対するC60の分子ひずみの寄与と導電性結晶格子の寄与が拮抗することによって、分子超伝導体としては過去最高の超伝導転移温度が実現した。

超伝導転移温度の高い物質が強い磁場に耐えることは理論的に予想されていたものの、フラーレンの磁場耐性の強さは研究チームを驚かせた。一般的な磁場装置では電子ペアを引き離すことができなかったのである。今回、米国ロスアラモス国立研究所強磁場施設のおかげで、方向に依存しない臨界磁場値を測定することができ、過去最大の90テスラという値を得た。これは、地球の磁場のほぼ200万倍である。

「電子ペアをつなぐ『のり』の強さは、私たちの予想をはるかに超えていました」とPrassides教授は言う。「この強さは、C60分子の電子構造や、電子構造と電子相関の協同的相互作用に由来しています」。

Prassides教授によると、このようなメカニズムは、合成化学を用いた超伝導挙動の微調整を可能にするという。超伝導転移温度を上昇させるためには、金属原子の置換に基づく従来の方法よりも、合成化学に基づく方法の方が有望だ。「化学者にとっての課題は、超伝導体の基本構成単位になる分子材料を設計することです」とPrassides教授は言う。

References

  1. Kasahara, Y., Takeuchi, Y., Zadik, R. H., Takabayashi, Y., Colman, R. H., McDonald, R. D., Rosseinsky, M. J., Prassides, K. & Iwasa, Y. Upper critical field reaches 90 tesla near the Mott transition in fulleride superconductors. Nature Communications 8, 14467 (2017). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。