ブロック共重合体: ポリマー相分離の形を予測する

2016年10月31日

ブロック共重合体の相分離構造を正確に予測できるモデルは、構造をデザインできるポリマーナノ粒子の開発に応用できるかもしれない

左: 実験で作製したジブロック共重合体ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像。右: 理論モデルから生成されたポリスチレン(青色)とポリイソプレン(緑色)のジブロック共重合体の構造
左: 実験で作製したジブロック共重合体ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像。右: 理論モデルから生成されたポリスチレン(青色)とポリイソプレン(緑色)のジブロック共重合体の構造

参考文献1より、The Royal Society of Chemistryの許可を得て複製。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、新しい数学的手法を適用することにより、2種類のポリマーの共重合体がさまざまな条件下で形成するナノ相分離構造体をモデルで再現することに成功した1

市販のプラスチック(ポリマー)のほとんどは、1種類の分子が長くつながったものからできている。しかし、異なる種類の金属を組み合わせることにより、それぞれの金属よりも優れた特性を持つ合金が得られるように、異なる種類のポリマーを組み合わせることによって、ポリマーの特性を調節することができる。

2種類の分子を共重合させたポリマーは、ジブロック共重合体と呼ばれている。2種類のポリマー鎖は互いに引力や反発力を及ぼし合うため、これらが多数集まることで、さまざまな形状をとることができる。また、ジブロック共重合体を、球形や円筒形など多様な形の空間に閉じ込めることにより、さらに多くの形状をとらせることができる。このようにして形状ひいては特性を変化させることのできるジブロック共重合体は、微小な化学反応器や薬物送達用のナノ粒子の材料として有望視され、多くの関心を集めている。

AIMRの藪浩准教授は、「閉じ込められた空間、すなわち拘束空間内のジブロック共重合体の相挙動を理解することは、ソフトマター物理学における主要な課題の一つです」と言う。「三次元の拘束空間では、分離したミクロ相を持つユニークな構造が形成されます。これらは『フラストレート相』と呼ばれ、実験的にも理論的にも研究されてきましたが、こうした系のエネルギー論的性質についてはほとんど分かっていないのです」。

今回、藪准教授らは、これまでの数理解析2を基に、一連の結合方程式を用いて、球状に閉じ込められたジブロック共重合体の形態と相を数値的に調べた。また、ポリスチレンとポリイソプレン(天然ゴムの高分子)の共重合体から実際にナノ粒子を作製し、使用した条件に応じてテニスボール状や、タマネギのような層状、ハンバーガー状など、さまざまな構造のナノ粒子を得た。そして、これらのナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を、数値モデルに基づく予測と比較したところ、両者が非常によく似ていることが明らかになった(図参照)。

「このモデルは、小さな粒に閉じ込められたジブロック共重合体の自由エネルギーと形態の関係を示すもので、高い精度で予測可能であり、実験結果とよく一致しています」と藪准教授は言う。「これを利用すれば、現象をうまく説明できるだけでなく、新しい実験の設計に向けて、信頼できる指針が得られます。特に、複雑な形態を実験で新たに作製する方法を探ったり、薬物送達などへの応用が見込まれる新規機能性材料を見つけたりするのに役立つでしょう」。

研究者らは、今回のモデルを用いて他の組み合わせの共重合体を研究するとともに、共重合比や分子量などの要因の影響についても調べる予定だ。

References

  1. Avalos, E., Higuchi, T., Teramoto, T., Yabu, H. & Nishiura, Y. Frustrated phases under three-dimensional confinement simulated by a set of coupled Cahn–Hilliard equations. Soft Matter 12, 5905–5914 (2016). | article
  2. Teramoto, T. & Nishiura, Y. Morphological characterization of the diblock copolymer problem with topological computation. Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics 27, 175–190 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。