パーシステントホモロジー: 無秩序の中の秩序を見いだす

2016年09月26日

数学的手法によりガラスのマルチスケール秩序の解明に貢献

シリカ(SiO2)ガラスのパーシステント図。パーシステント図に存在する曲線はシリカガラス中に存在する特徴的なリング原子構造を示している。ここで赤色の球はO原子、青色の小球はSi原子を表す。
シリカ(SiO2)ガラスのパーシステント図。パーシステント図に存在する曲線はシリカガラス中に存在する特徴的なリング原子構造を示している。ここで赤色の球はO原子、青色の小球はSi原子を表す。

© 2016 Y. Hiraoka et al.

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、パーシステントホモロジーという新しい数学的手法を利用することにより、非常に複雑な構造をとるガラスの原子配置について重要な幾何学的情報を得た1

窓ガラスに使われるシリカ(SiO2)ガラスから金属ガラスまで、ガラスの種類はさまざまである。結晶中の原子が周期性をもって配列しているのに対し、ガラス中の原子はほぼランダムに分布している。しかし、ガラスの構造は完全にランダムであるわけでもなく、その局所的な原子秩序はガラスの特性に強い影響を及ぼしうる。ただ、こうした局所的な原子秩序は全体の乱雑さの中にほとんど埋もれてしまうため、記述するのは非常に困難だ。

そこでAIMRの平岡裕章教授らは、応用数学の力を借りることにした。それが、最近開発されたパーシステントホモロジーという数学的手法である。パーシステントホモロジーは、複雑なデータ集合に隠れた幾何構造の記述を可能にする強力な解析方法で、さまざまな分野で応用されている。

「私たちはパーシステントホモロジーを利用して、ガラスの原子配置におけるリング構造の階層的関係を調べました」と平岡教授は説明する。

研究者らは、パーシステントホモロジーに基づくソフトウエアを用い、ガラスの原子位置のモデルを入力して、ガラスの構造をグラフで表現するパーシステント図を作成した。

パーシステント図は、材料中の局所的なマルチスケール構造の存在を示すのに利用できる。さまざまな原子配置にパーシステントホモロジーを適用すると、原子の大きさや原子間距離といった幾何学的パラメーターに応じて、異なるリング状構造が現れてくる。例えば、原子配置が完全にランダムであれば、局所的なリング構造が突出することはなく、パーシステント図のデータ分布は一様になる。結晶では、その幾何学的特徴に応じて、パーシステント図にはっきりした構造が現れる。今回調べたシリカガラスのパーシステント図は両者の中間で、階層的なリング状構造による複数の曲線によって特徴付けられる(図参照)。

このように、パーシステントホモロジーを用いると、従来の手法では発見できない階層構造を明らかにすることができる。今回の研究は、この手法がガラスなどのアモルファス材料の構造と特性を調べるのに威力を発揮することを強く示唆している。

今後について、チームはもっと高い目標を掲げている。「アモルファス構造解析の次の目標は、現在の物理学における最重要問題のひとつであるガラス転移を数学的に特徴付けることです」と平岡教授は言う。

References

  1. Hiraoka, Y., Nakamura, T., Hirata, A., Escolar, E. G., Matsue, K. & Nishiura, Y. Hierarchical structures of amorphous solids characterized by persistent homology. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 113, 7035–7040 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。