グラフェン: ナノサイズのリボンをつなげる
2016年05月30日
銅基板上で極細のグラフェンリボンを成長させることにより、「奇跡の材料」と呼ばれるグラフェンの応用範囲を広げられるかもしれない
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、微小なグラフェン薄片をつなぎ合わせる「ボトムアップ」のアプローチによって、銅基板上にグラフェンナノリボンを作り、それらをきれいに相互接続させることに成功した。これにより、グラフェンを用いた高速・低電力電子デバイスへの道が切り拓かれる。
グラフェンは、2004年に発見された摩訶不思議な物質である。鉛筆の芯にも使われている黒鉛(グラファイト)中に存在する「炭素原子が蜂の巣構造状に並んだ厚み一原子のシート」であるが、電子の移動速度が非常に速く機械的にも破れにくいなどの不思議な性質から、その応用に向けた研究が活発に展開されている。
しかし、エレクトロニクス材料として使うためには、幅が50ナノメートル以下の細長い形状のグラフェン(グラフェンナノリボン)を作る必要がある。しかも、蜂の巣構造から出現する不思議な性質を活かすためには、端の部分やつなぎ目の構造を原子レベルでコントロールしなくてはならない。このハードルは想像以上に高かった。
今回、AIMRのPatrick Han助教らは、こうした困難を克服する有力な手法を開発した1。ボトムアップ式アプローチを用いて、銅基板上で微小なグラフェンナノリボンを作り、さらに、それらを化学的にも電気的にもきれいに接続することに成功したのだ(図参照)。
Han助教らは、銅基板を加熱して前駆体分子からグラフェンナノリボンを成長させ、それらをきれいにつなぎ合わせた。また、そのつなぎ目では、ナノリボンの特徴を活かしたまま電子状態がスムーズに接続していることを確認した。
今回の手法では、グラフェンナノリボンに関する二つの課題が同時に解決されている。「前駆体分子が整列するのに十分な時間と空間があれば、幅が狭く、非常に長い、欠陥が無いグラフェンナノリボンを形成することができます。さらに、グラフェンナノリボンの相互接続によって、きれいにつながった電気的接続が得られます。ボトムアップ式の戦略により、グラフェンの素晴らしい特性を利用できるようになるのです」とHan助教。
最近、グラフェンに加え、他の二次元材料にも注目が集まりつつある。しかし、有機化学的手法を用いたボトムアップ式物質合成の発展によって、グラフェンの世界に再び飛躍をもたらすことができる、とHan助教は考える。これにより、将来、グラフェンナノデバイスが実現するだけでなく、非グラフェン系材料の集積化も実現できるかもしれない。
すでに研究チームは、ナノリボンの成長方向を制限し、狙った位置へのナノリボンの作製や、接続部分の原子配列を高度にデザインするための技術開発に取り組んでいる。
References
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Han, P., Akagi, K., Federici Canova, F., Shimizu, R., Oguchi, H., Shiraki, S., Weiss, P. S., Asao, N. & Hitosugi, T. Self-assembly strategy for fabricating connected graphene nanoribbons. ACS Nano 9, 12035–12044 (2015). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。