金属ガラス: 熱サイクルで若返る

2015年12月21日

金属ガラスの脆性は、熱サイクルにかけることで容易に改善できる

金属ガラスの構造にはナノスケールの不均一性があり、熱膨張率が位置により異なっているため、金属ガラスを熱サイクルにかけると内部応力が生じる(楕円体の大きさは、異なる熱膨張率に起因して生じた熱膨張量の違いを、赤色は形成した圧縮領域を、さらに、青色は引張領域をそれぞれ模式的に示す)。
金属ガラスの構造にはナノスケールの不均一性があり、熱膨張率が位置により異なっているため、金属ガラスを熱サイクルにかけると内部応力が生じる(楕円体の大きさは、異なる熱膨張率に起因して生じた熱膨張量の違いを、赤色は形成した圧縮領域を、さらに、青色は引張領域をそれぞれ模式的に示す)。

Macmillan Publishers Ltdより許可を得て転載: Nature Materials (ref. 2), copyright (2015)

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らが、金属ガラスを熱サイクルにかけるだけで「構造若返り」が起こり、脆性が低くなることを発見した1。金属ガラスの応用としては、電子デバイスの部品、生体用インプラント、スポーツ用品などが考えられているが、今回の発見は、金属ガラスの特性と応用の両方に深く関わるものである。

金属ガラスは、その名のとおり金属からできているがガラスでもある材料で、従来型の合金のような結晶構造を持たず、液体に近い原子配置になっている。この構造が、金属ガラスに高い強度と靭性を与えている。

しかし、金属ガラスは概して時間とともに脆くなり、亀裂が入りやすくなる。このような経時変化は室温でも起こりうるが、高温ではもっと速くなる。金属ガラスは高温処理によって磁気特性が向上するので、実際に材料として応用する際は、高温での劣化がネックとなってくる。

このたびAIMRのLindsay Greer教授が率いる国際チームは、使用中いつでも経時変化を逆転させることのできる意外なほど単純な方法を見いだした。室温と液体窒素温度(77ケルビン)の間で温度を上げ下げする熱サイクル法だ。

この発見は、金属ガラスの構造を解明する上で役に立つ。そもそも、金属ガラスの構造に際立った特徴がないなら、熱サイクルにかけても何の影響も受けないはずである。Greer教授は、「均一な材料の温度を変えると、均一に膨張・収縮します」と説明する。「均一な膨張や収縮は完全に可逆的なので、材料の特性は変わりません」。

ところが、実験の結果、金属ガラスを比較的温度高低差の少ない熱サイクルにかけるだけで、それよりも極端な処理にかけるのと同じくらい大きな影響を及ぼせることが明らかになった。この結果は研究チームを驚かせた。「なにしろ、10サイクル後に金属ガラス試料に蓄えられる余剰エネルギーの大きさが、同じ金属ガラスシートを室温で元の厚さの約20パーセントまで圧延したときに蓄えられると予想されるエネルギーの大きさと同じなのです」とGreer教授。

温度変化の影響を受けるということは、金属ガラスは完全に均一であるわけではないことになる。Greer教授は、「金属ガラスは何らかの形で不均一であると結論付けざるを得ません」と言う。

低温での熱サイクルにより大きなエネルギーが蓄えられるのは、金属ガラスの構造にナノスケールの不均一性があるからだと考えられる。金属ガラスの構造に不均一性があると、熱サイクルにかけたときに、領域ごとに異なる熱膨張が起こる(図参照)。これにより内部応力が生じて、原子配置が不可逆的に変化する。この変化によって金属ガラスの可塑性が向上し、構造が効果的に若返るのだ。

Greer教授によると、今回の知見から多くの可能性が開けてくるという。「構造若返りによって、金属ガラスの他の特性も向上する可能性があります。また、従来の酸化物ガラスやポリマーガラスなど、他のタイプのガラスにも同じ手法が適用できるかもしれません」。

References

  1. Ketov, S. V., Sun, Y. H., Nachum, S., Lu, Z., Checchi, A., Beraldin, A. R., Bai, H. Y., Wang, W. H., Louzguine-Luzgin, D. V., Carpenter, M. A. & Greer, A. L. Rejuvenation of metallic glasses by non-affine thermal strain. Nature 524, 200–203 (2015). | article

  2. Hufnagel, T. C. Metallic glasses: Cryogenic rejuvenation. Nature Materials 14, 867–868 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。