相変化メモリー: 超高速スイッチングで隠れた性質が見えてきた
2015年10月26日
高速相変化メモリーデバイスの温度依存性が予想外に複雑であることが明らかになり、その性能に関する問題の解決に役立つことが期待される
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、カルコゲナイドガラスという特殊なガラスの結晶化速度を調べることにより、原子移動度の「クロスオーバー」が起きていることを発見した。この発見は、カルコゲナイドガラスを次世代コンピューターメモリーセル用に最適化するのに役立つ可能性がある1。
ゲルマニウム-アンチモン-テルル(GST)や銀-インジウム-アンチモン-テルル(AIST)などのカルコゲナイドに電気パルスをかけると、ガラス状態と結晶状態の間で相変化スイッチングが起こる。カルコゲナイドのスイッチングはナノ秒の時間スケールで起こるため、相変化を利用してデジタルビットの書き込みと消去を行う相変化メモリーの材料として魅力的だ。実際、カルコゲナイドなどを用いる薄膜系相変化メモリーデバイスは、従来の磁気ハードディスクドライブの約10万倍の速度でデータを記憶することができる。
相変化メモリーの基本的課題の1つはスイッチングの高速化だが、データ記憶が不安定になるため容易ではない。この問題を克服するため、設計者たちは、温度が原子移動度に及ぼす強い影響を利用している。例えば、通常なら結晶状態への変化はゆっくり起こるが、融点よりわずかに低い温度まで加熱することによって、この変化を速くすることができる。
化学反応速度を記述する最も一般的な法則であるアレニウスの法則は、相変化メモリーデバイスに用いられるような幅広い温度領域では成り立たない。そこで研究者たちは、さまざまな温度における粘性液体の挙動がアレニウス則からどれほど外れているかの目安である「フラジリティー」に基づいてカルコゲナイドを分析している。
AIMRのLindsay Greer教授とJiri Orava助手、および英国の共同研究者たちは、昇温速度10,000 K/s以上という超高速熱量測定法を用いて、AISTが結晶化する際の熱流量を測定した。測定は、実用的な幅広い温度範囲にわたって動的挙動を評価できるだけの高い精度で行われた。このチームは過去に、GSTがアレニウス則から外れた(フラジャイルな)液体挙動を示すことを発見していた。ところが、彼らが最近行ったAISTの結晶成長に関する測定では、アレニウス則に従う(ストロングな)温度依存性を示すように見えたからだ。
今回、AISTの「過冷却」液体サンプルを慎重に熱量分析した結果、この一見単純そうな温度依存性が観測されたのは、冷却によりフラジャイルな挙動が徐々にストロングな挙動へと変化する「クロスオーバー」が起こったためであることが示唆された。Greer教授は、このタイプの動的クロスオーバーは水の挙動に似ているが、相変化カルコゲナイドについては調べられたことがなかった、と説明する。 「今回の知見から、フラジリティーに基づいてカルコゲナイドを選ぶという考え方では単純すぎることがわかります」とGreer教授は言う。「私たちはこれまでフラジリティーの程度を見ていましたが、クロスオーバー温度自体を見るべきなのです。このパラメーターを調節する方法については、すでに手掛かりが得られています」。
「デバイス動作の革命を約束することはできませんが、この発見をきっかけに、性能限界に関する理解がもっと深まることを期待しています」とGreer教授は言う。
References
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Orava, J., Hewak, D. W. & Greer, A. L. Fragile-to-strong crossover in supercooled liquid Ag-In-Sb-Te studied by ultrafast calorimetry. Advanced Functional Materials 25, 4851–4858 (2015). | article
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