太陽エネルギー変換: 3Dグラフェンで水蒸気を発生させる

2015年09月28日

ナノ多孔質グラフェンのユニークな特性を利用して太陽光で水を加熱し、極めて高い効率で水蒸気に変換することのできる再生可能エネルギー装置が開発された

3Dナノ多孔質グラフェン材料を水に浮かべて太陽光を照射すると、水は毛管現象により加熱領域まで輸送され、太陽光の熱エネルギーにより加熱されて水蒸気になる。左は概念図、右は実物写真。
3Dナノ多孔質グラフェン材料を水に浮かべて太陽光を照射すると、水は毛管現象により加熱領域まで輸送され、太陽光の熱エネルギーにより加熱されて水蒸気になる。左は概念図、右は実物写真。

© 2015 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者が、太陽光のみをエネルギー源とする、環境に優しい水蒸気発生装置を開発した1。この装置に使われている3次元(3D)ナノ多孔質グラフェンは、光を吸収するだけでなく、水を高温領域に移動させて水蒸気に変換することができる。太陽光エネルギーから水蒸気への変換効率は80パーセントと非常に高く、塩水の淡水化や汚染水の浄化への利用が期待されている。

太陽エネルギーを利用する最も簡単な方法の1つは、太陽熱蒸留器を用いた浄水化である。原始的な装置なら、地面に穴を掘って、透明なビニールシートをかぶせるだけでよい。やがて、太陽光が地中の水分を加熱して蒸発させ、その水蒸気がビニールシートの下面で凝結して浄水になる。研究者らは、太陽光を利用して水から水蒸気を発生させるこうした原始的な装置を改良するため、グラファイト粉でできたナノ材料を研究してきた。この集光性グラファイト材料を水に浮かべると、太陽光を吸収し、そのエネルギーを空気-水界面で熱として放出して、水の蒸発を促進させる。また、断熱性が高いため、熱損失を最小限に抑えることができる。

今回AIMRの伊藤良一助教および陳明偉(Mingwei Chen)教授らは、グラフェンシートを水蒸気発生材料として用いることで、さらに高い変換効率が得られるのではないかと考えた。グラフェンシートは極めて軽い二次元スーパーマテリアルで、高い光吸収特性と保温特性を示すからだ。ただ、原子1層から成る平坦で疎水性のグラフェンシートは、単独では水蒸気発生装置用の集光材料として利用することができない。

研究チームは、近年平坦なグラフェンシートを3D構造化する手法を開発していたので、この新手法を利用してグラフェンシートの3D立体化に世界で初めて成功した。彼らは、滑らかなナノ多孔質ニッケルをテンプレートとし、その表面上に窒素と炭素を用いて原子レベルの薄さでグラフェンを成長させた後、テンプレートを酸で溶かして除去した。これにより、厚さ35マイクロメートル、幅数センチメートルの窒素ドープ3D ナノ多孔質グラフェン構造体が得られた。このグラフェン構造体は密度が低いので水に浮く。

グラフェン構造体の水蒸気発生材料としての性能をテストしたところ、グラファイト粉を用いた場合に比べて効率が24パーセントも高くなっていた。高分解能顕微鏡での観察と熱輸送特性の測定結果から、いくつかの要因が組み合わさることで効率が上がったことが明らかになった。グラフェンユニットは、散乱光を吸収することによって「ヒーター」として機能する。一方、ナノ多孔質構造は太陽熱放射を局所化するとともに、毛管現象により水を空気-水界面まで連続的に吸い上げる「ポンプ」の役割を果たす。さらに、窒素ドーパントは、水滴をヒーター付近に付着させ、蒸発スピードを速めるのに役立っているのだ(図参照)。
「ヒーターとしてのグラファイト粉は、断熱性に優れていましたが、熱を閉じ込めたり水を吸い上げたりする性能が劣っていました」と伊藤助教は説明する。「私たちが開発した3Dナノ多孔質グラフェンは、完全にクリーンな再生可能エネルギー技術として、こうした弱点が改良されています。電気も化石燃料も必要ないのです」。

References

  1. Ito, Y., Tanabe, Y., Han, J., Fujita, T., Tanigaki, K. & Chen, M. Multifunctional porous graphene for high-efficiency steam generation by heat localization. Advanced Materials 27, 4302–4307 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。