鉄系超伝導体: 超伝導に関わる不可解な相

2015年05月25日

鉄セレンの超伝導にはネマチック相という異常な相が関与しているようだ

左図は鉄セレン(FeSe)の結晶構造。右図は、左上図のFe原子面(灰色の影を付けた領域)を上から見た図。緑色の影は、ネマチック相におけるFe軌道由来の伸びた電子状態を表す。
左図は鉄セレン(FeSe)の結晶構造。右図は、左上図のFe原子面(灰色の影を付けた領域)を上から見た図。緑色の影は、ネマチック相におけるFe軌道由来の伸びた電子状態を表す。

© 2015 Takashi Takahashi

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、光電子分光法を用いた解析を行い、鉄セレン(FeSe)の超伝導機構の解明に向けて重要な一歩を踏み出した。FeSeの超伝導は、原子がほぼ平行に配列するネマチック相という異常な秩序状態と関係していると推測されており、今回の研究結果はこの推測を裏付けるものだった。

従来、鉄の強磁性は超伝導の妨げになると予想されていたため、2006年の鉄系超伝導体の発見は大変な驚きをもって迎えられた。それ以降、研究者たちは、鉄系物質の超伝導機構を説明しようと研究を重ねている。

研究者たちが特別な関心を寄せているのが、鉄系超伝導体の中で最も単純な結晶構造を持つFeSeである(左図参照)。FeSeについては、原子3個分という極薄の膜が、液体窒素の沸点である77K付近の温度まで超伝導を維持することも明らかになっているが、高品質の結晶の作成が困難であったことから、その電子構造の詳細な解明は進んでいなかった。

けれども近年、FeSe結晶成長技術は大きく進歩したため、AIMRの高橋隆教授が率いる東北大学の研究者らは今回、高品質FeSe単結晶を作成し、角度分解光電子分光法を用いて電子のエネルギー状態の温度変化を調べることができた1。その結果は、FeSeの超伝導にネマチック相が重要な役割を果たしていることを示していた。

角度分解光電子分光法での測定は、FeSeの電子バンド構造に大きな分裂があることを明らかにした。この分裂は低温で見られるもので、FeSeの構造変化が起こる90Kを超えても持続する。バルクのFeSeには長距離磁気秩序がないため、この結果は、大きなバンド分裂を引き起こすのに長距離磁気秩序は必須ではないことを示している。研究者らは、電子的に駆動されたネマチック状態が電子バンドの分裂を引き起こしたのではないかと考えている。ネマチック状態とは、格子の並進対称性を損なわずに格子の回転対称性を破る電子的秩序の一種である(右図参照)。

「今回の研究結果は、FeSeの非従来型超伝導を理解する鍵となるだけでなく、鉄系超伝導体におけるネマチック性の起源を解明する鍵にもなります」と高橋教授は言う。

研究者らは、今後もFeSeを研究していく予定である。「将来の目標は、FeSeがバルクから膜へと薄くなるにつれ、超伝導特性がどう変化していくのか解明することです」と高橋教授は説明する。「また、複数の物質でできたデバイスの構造を調節して電子状態を調節することによって、超伝導転移温度を上げていきたいと考えています。できれば、液体窒素の沸点を大きく上回る温度まで上げたいですね」。

References

  1. Nakayama, K., Miyata, Y., Phan, G. N., Sato, T., Tanabe, Y., Urata, T., Tanigaki, K. & Takahashi, T. Reconstruction of band structure induced by electronic nematicity in an FeSe superconductor. Physical Review Letters 113, 237001 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。