シリセン: バンド構造にディラック・コーンを発見

2015年04月27日

シリセンの層間化合物を作製して電子状態を評価することにより、この材料がグラフェンと似た電子特性を持っていることが明らかになった

上図: AIMRの研究者らは、シリセンの電子バンド構造を測定するために、平坦なカルシウム原子層(金色)の間に凹凸のあるシリセン層(青色)を挟んだ化合物を作製した。下図: シリセン層は、2個の円錐がその頂点で接したディラック・コーン電子状態を持つことが示された。
上図: AIMRの研究者らは、シリセンの電子バンド構造を測定するために、平坦なカルシウム原子層(金色)の間に凹凸のあるシリセン層(青色)を挟んだ化合物を作製した。下図: シリセン層は、2個の円錐がその頂点で接したディラック・コーン電子状態を持つことが示された。

上図: 許可を得て、参考文献1より改変。© 2014 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim. 下図: 許可を得て、論文Pesin, D. & MacDonald, A. H. “Spintronics and pseudospintronics in graphene and topological insulators.” Nature Materials 11, 409–416 (2012)より複製。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、グラフェンに似た構造を持つ新材料シリセンが、電子特性もグラフェンに似たものを併せ持つことを明らかにした。研究チームは、シリセンのバンド構造(電子の運動量とエネルギーの関係)に質量ゼロの「ディラック・コーン」が存在することを実証して、シリセンを超高速電子デバイスに応用できる可能性を示した。

ケイ素のグラフェン状物質であるシリセンは、理論的には非常に魅力的な材料だが、実際に作製するのは容易ではない。この物質は、ケイ素原子が六角形(蜂の巣)格子状に並んだ単層のケイ素原子シートである点ではグラフェンに似ているが、完全な平面であるグラフェンとは違い、しわ状の凹凸(バックリング)構造を持つ。この構造がシリセンに好ましい特性とそうでない特性の両方を付与している。

例えば、バックリング構造はシリセンに魅力的な電子特性を持たせると考えられており、シリセンシートに垂直に電圧をかけてバンドギャップを調節できるようにすることなどが期待されている。しかし、バックリング構造はシリセンを本質的に不安定にするため、単離した単層シリセンシートはまだ作製できておらず、その電子状態も解明されていなかった。

今回、AIMRの高橋隆教授が率いるチームは、次善の策として、平坦なカルシウム原子層の間にシリセン層を挟んだ化合物(上図参照)を作製した。そして、角度分解光電子分光法(ARPES)という解析手法を用いてこの化合物のシリセン層の電子特性を調べたところ、シリセン層がディラック・コーンという特殊な電子状態を持つことを示す決定的な証拠をつかむことができた。

グラフェンの電子バンド構造は、2個の円錐がその頂点で接した形をしている(下図参照)。この状態がディラック・コーンであり、グラフェンに、単純な絶縁体や伝導体とは異なる特殊な電子特性を与えている。特に、質量がゼロになるディラック・コーン状態でバンドギャップが存在しない場合、ディラック・コーン上の電子は材料中を超高速で移動することができる。今回、シリセンが同じバンド構造を持つことが示され、その電子特性に関する理論予測が裏付けられた。

「シリセンが質量ゼロのディラック・コーンを持つことは理論計算によって予測されていましたが、実際にディラック・コーンが存在するのかどうか、存在するとしたら質量があるのかないのかを実験で確認することはできていませんでした」と高橋教授は説明する。「初期の研究では、金属基板上に作製したシリセン試料を使っていたため、基板との相互作用を排除できなかったからです」。

高橋教授によると、研究チームは「基板などの外的要素のない真のシリセンシートを合成し、シリセン固有の電子構造を測定すること」を次の目標にしており、ゲルマニウムのグラフェン状物質である「ゲルマネン」の研究も計画しているという。

References

  1. Noguchi, E., Sugawara, K., Yaokawa, R., Hitosugi, T., Nakano, H. & Takahashi, T. Direct observation of Dirac cone in multilayer silicene intercalation compound CaSi2. Advanced Materials 27, 856−860 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。