グラフェン: 白金を使わない高性能な水素発生電極

2015年03月30日

3次元ナノ多孔質グラフェンに窒素と硫黄をドーピングし、欠陥を形成させることによって、安価で高効率な水素燃料電池用触媒の開発に成功した

窒素(赤色)と硫黄(緑色)をドーピングした3次元ナノ多孔質グラフェンの構造。枠内は、考えられる反応機構を表す。
窒素(赤色)と硫黄(緑色)をドーピングした3次元ナノ多孔質グラフェンの構造。枠内は、考えられる反応機構を表す。

許可を得て参考文献1より改変。 © 2014 Wiley-VCH Verlag GmbH Co. KGaA, Weinheim.

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、科学技術振興機構(略称JST)の支援を受けて、水素燃料電池に利用できるグラフェン系触媒を開発した1。高価な金属触媒を必要としないグラフェン電極は、低コストで高効率の水素燃料電池を可能にし、日本が目指す「水素エネルギー社会」の実現に貢献することが期待される。

研究チームの伊藤良一助教とMingwei Chen(陳明偉)教授らも、22世紀には二酸化炭素を排出しないクリーンな水素が主要なエネルギー源になると考えており、JSTは、自動車から住宅、商業活動まで、あらゆるものに利用可能な水素燃料電池の開発を大きく推進している。中でも、燃料電池車が水素を補充するための水素ステーションなど、その場で水素発生できる手法の開発に注目が集まっているが、エネルギー利用効率やコストの面でさまざまな課題がある。

水素燃料電池は、酸素還元反応と水素発生反応という2つの電気化学反応を経て電気を作り出す。どちらの反応にも触媒が必要だが、最も効率のよい触媒は白金などの高価な貴金属である。水素燃料電池の普及を促すには、これらの両方の電気化学反応において、低コストでかつ貴金属に匹敵する触媒活性を持つ新しい触媒を開発することが望まれている。

炭素原子からなる2次元シート構造をもち、原子1個分の厚さしかないグラフェンは、金属を必要としない触媒の有望な候補と考えられているが、化学的活性が低いという欠点を併せ持つ。伊藤助教・Chen教授らは、グラフェンの2次元シートをつなぎ合わせて3次元網目構造を形成させ、そこに窒素を少量添加(ドーピング)することによって、酸素還元反応の大幅な効率化に成功している2。しかし、水素発生反応の効率化はさらに大きな課題であった。

伊藤助教・Chen教授らは、中国の共同研究者らとのその後の研究で、二硫化モリブデンというグラフェンに似た2次元材料を水素発生反応の触媒するのに硫黄が不可欠であることを突き止めている3。これらの研究で得た知見をもとに、研究チームは3次元ナノ多孔質グラフェンに窒素と硫黄を同時にドーピングすることを試みた。

ナノ多孔質グラフェンの格子中には、通常、炭素原子の欠落(空孔)や転位など、さまざまな欠陥が含まれている。このような欠陥はグラフェンの化学的活性を増大させる傾向にあるため、研究者らは窒素や硫黄をドーピングしていない3次元ナノ多孔質グラフェンを対照サンプルとして、触媒活性の向上が格子欠陥だけで説明できるかどうかを調べた。その結果、水素発生反応における触媒活性の向上は、窒素、硫黄、欠陥の3つの要因すべての相互作用に起因していることが明らかになった。

研究者らは、今回の金属触媒を必要としない水素発生反応触媒の可能性に大きな期待を寄せている。「貴金属を用いずに水素を『その場発生』させることが出来るこの触媒は、燃料電池車用の水素ステーションや水素社会の実現に貢献するでしょう」と伊藤助教は語る。

References

  1. Ito, Y., Cong, W., Fujita, T., Tang, Z. & Chen, M. W. High catalytic activity of nitrogen and sulfur co-doped nanoporous graphene in the hydrogen evolution reaction. Angewandte Chemie International Edition 53, 1–7 (2014). | article

  2. Ito, Y., Qiu, H.-J., Fujita, T., Tanigaki, K. & Chen, M. Bicontinuous nanoporous N-doped graphene for the oxygen reduction reaction. Advanced Materials 26, 4145–4150 (2014). | article

  3. Tan, Y. W., Liu, P., Chen, L. Y., Cong, W. T., Ito, Y., Han, J. H., Guo, X. W., Tang, Z., Fujita, T., Hirata, A. & Chen, M. W. Monolayer MoS2 films supported by 3D nanoporous metals for high-efficiency electrocatalytic hydrogen production. Advanced Materials 26, 8023–8028 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。