ナノ粒子: 油の中の水滴を引き伸ばす

2014年08月25日

油中に懸濁させた球状の水滴をナノ粒子を利用して引き伸ばし、安定な楕円状にすることができた

油中でナノ粒子界面活性剤に覆われた懸濁水滴に電場をかけると、球状から細長く伸びて楕円状に変化する。
油中でナノ粒子界面活性剤に覆われた懸濁水滴に電場をかけると、球状から細長く伸びて楕円状に変化する。

参考文献1より複製。 © 2013 M. Cui et al.

油中に懸濁させた水滴の形は球状である。水滴がこの形をとることによって、混ざり合わない2つの液体間の接触面積を最小にすることができるからだ。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とマサチューセッツ大学(米国)の研究者らは、ある液体に懸濁させた別の液体の液滴の形状を、ナノ粒子を用いて変化させた1。この液滴の形状は、変化後も長期間にわたって維持された。「このような系で安定な非平衡形状の液滴が長期間存続しうることが実証されたのは、今回が初めてです」と、チームリーダーのThomas Russell教授は説明する。

研究者らはまず、ナノ粒子を分散させた水を、アミン末端ポリマーと油の混合液に加えて懸濁した。すると、ポリマーが油と水の界面に集合した。続いて、ナノ粒子が水相から界面へと拡散し、ポリマーのアミン基と相互作用してナノ粒子界面活性剤を形成した。これらのナノ粒子界面活性剤が集合することによって、界面張力は最小になる。

次に、この系を2つの電極の間に置いて電場を印加した。その結果、球状だった液滴は、電場による静電気力の影響で長く伸び、楕円状に変形した(図参照)。このとき、個々の液滴の体積に変わりはなかったが、表面積が大幅に増加したため、界面に形成されるナノ粒子界面活性剤の数が増加した。

液滴がどの程度伸長するかは、印加する電場の強さによって決まる。電場をオフにすると、各液滴は元の球状に戻ろうとした。実際、液滴の変形はやや緩和したが、界面にナノ粒子界面活性剤が集合しているため、表面積が大幅に減少することはなかった。研究チームは、電場の方向を変えて液滴をさまざまな形状に変化させることによって、多様な集合体を調べた。撹拌によって液滴を変形させ、油相中に水のチューブを形成することもできた。

球状から変形した液滴は、その形状を1か月以上にわたって保持した。「液滴内の液体は、最終的には液滴外の液体へと拡散して蒸発するので、ナノ粒子集合体にしわが寄ってきます」とRussell教授は説明する。しわくちゃになった液滴は、干しブドウのように見えたという。

本研究は、夢の全液体電池の実現に役立つかもしれない。「一方の液体が絶縁油で、他方の液体が水溶液なら、水溶液相内の電荷を容器の片側から反対側へとすばやく輸送することができます」とRussell教授は言う。「電池への応用には、まさにこれが必要です。この研究により、全液体電池の製造を可能にする手段が示されたと言えるでしょう」。

References

  1. Cui, M., Emrick, T. & Russell, T. P. Stabilizing liquid drops in nonequilibrium shapes by the interfacial jamming of nanoparticles. Science 342, 460–463 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。