ナノデバイス: 分子モーターで生体分子を運ぶ

2014年07月28日

ナノチューブのレールにキネシンを固定化して微小管を輸送することに成功した

ガラス板に取り付けた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、キネシン分子モーターで動く微小管ベルトコンベアーのレールとしての役割を果たす。
ガラス板に取り付けた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、キネシン分子モーターで動く微小管ベルトコンベアーのレールとしての役割を果たす。

参考文献1より許可を得て複製 © 2014 American Chemical Society

近年、ラボ・オン・チップと呼ばれる小型の化学反応器を用いて生体試料の分析を行うことが増えている。しかし、こうした分析デバイスはポンプや電源を接続する必要があるため、さらなる小型化には限界があり、モニタリング用として体内に直接埋め込むことができない。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のWinfried Teizerジュニア主任研究者らは、このたび、生体分子モーターを利用した超小型システムを開発した(図参照)1。このシステムは、かさばるポンプや電池を必要とせず、カーボンナノチューブでできたレールに沿って生体分子を輸送することができる。

キネシン-1は天然のモータータンパク質であり、細胞内の高エネルギー化合物であるアデノシン三リン酸(ATP)を利用して、レールの役割をする微小管に沿って物質を輸送する。微小管は、チューブリンというタンパク質が重合した管状の構造物で、一般的には幅25 nm、長さ数マイクロメートル程度の大きさである。研究チームは、この配置を逆にして人工のレールにキネシンを固定化し、ベルトコンベアーのように微小管を動かした。

研究者らはまず、ガラス板をアミノシラン分子でコーティングした後、先端にビオチンという生体化合物を付けたポリエチレングリコール(PEG)鎖を結合させた。次に、このビオチンと強く結合するストレプトアビジンというタンパク質を吸着させた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を付け足した。ここで、ストレプトアビジン分子は、約35,000/µm2という高い密度でMWCNT表面を覆っていた。

研究チームは、のこぎり状のパターンに形成した電極に電場を印加した。誘電泳動と呼ばれるこのプロセスによりMWCNTが整列し、電極間にレールを形成した。続いて、MWCNTレールにビオチンリンカー付きキネシンを固定化した後、ローダミンという蛍光色素で標識した微小管を加えた。すると、キネシン分子はATPを消費しながらMWCNTレールに沿って、約150 nm/秒の平均速度で微小管を移動した。

この速度は、通常のキネシンの速度(約800 nm/秒)よりも遅い。研究者らはその理由を、今回のキネシン分子が天然のキネシン分子よりも短く作られているため、分子のねじれにより微小管を進ませる能力が制限されているせいかもしれない、と考えている。

「今回の実験で、微小管がMWCNTレールの上を滑るように移動できることは実証されましたが、レールからレールへと乗り換えられるかどうかは不明です。これができれば、MWCNTを利用して完全な回路を作れます」とTeizerジュニア主任研究者は言う。「現在は、微小管がMWCNTセグメントの間をどのように移動するかを調べているところです」。

研究者らは、最終的には、微小管ベルトコンベアーにウイルス、薬物、タンパク質、ナノ粒子などを乗せて輸送したいと考えている。それが実現すれば、さまざまなバイオセンシングへの応用が可能になるだろう。

References

  1. Sikora, A., Ramoń-Azcoń, J., Kim, K., Reaves, K., Nakazawa, H., Umetsu, M., Kumagai, H., Adschiri, T., Shiku, H. & Matsue, T. et al. Molecular motor-powered shuttles along multi-walled carbon nanotube tracks. Nano Letters 14, 876–881 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。