ガラス: 無秩序から無秩序への転移
2013年06月24日
アモルファス材料で発見された新しいタイプの相転移は、ガラスに関する根本的な問題を提起するとともに、メモリーデバイスの開発につながることが期待される
書き換え型光ディスクやコンピュータメモリーに使われている相変化材料は、現代のコンピュータ開発にとって非常に重要な材料である。このような用途に使われる相変化材料は、光パルスや電気パルスによって可逆的な高速転移が誘起され、分子構造が規則正しい結晶からガラスに似た非晶質(アモルファス)状態へと変化するのが一般的である。結晶とアモルファス状態では、光反射率や伝導率などの材料の物理的特性が大きく異なるため、この現象を利用してデジタルビットの「オン」状態と「オフ」状態を符号化することができる。
このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のJiri Orava助手らの国際研究チームは、2つの異なるアモルファス状態の間で起こる全く新しいタイプの相転移を発見した1。Orava助手によると、今回発見したアモルファス-アモルファス転移は、よく知られたアモルファス-結晶転移とも、既知のアモルファス-アモルファス転移とも根本的に異なっているという。
研究チームが調べたのは、同量のヒ素(As)とセレン(Se)で構成されるAs50Se50というガラス材料である。蒸着後のAs50Se50薄膜はアモルファス状態であるが、高温まで加熱してからゆっくり冷却すると結晶化する。ところが研究チームは、適度な加熱によりAs50Se50が別の安定なアモルファス状態に転移することを発見した。さらに、この状態の材料にレーザー光を照射すると、新たに成長した材料が、また別の安定アモルファス状態を形成する。この2つのアモルファス状態は、As原子とSe原子の結合エネルギーを測定して原子配置の特徴を明らかにすることによって区別できる。
従来は、圧力をかけた材料でしか異なるアモルファス状態間の転移は観測されていなかった。今回、加熱により誘起される新しい転移が発見されたことは、これまでとは違う機構がアモルファス-アモルファス転移を引き起こしていることを示唆している。この転移機構が特に興味深いのは、加熱とレーザー照射を交互に繰り返すことによって、2つのアモルファス状態が可逆的に切り替わる(スイッチングする)点である。スイッチングは、ミリ秒からマイクロ秒間隔で起こると考えられる。
アモルファス状態間の可逆的スイッチングは、既にほかの用途に利用されているアモルファス-結晶転移に似ているが、この新しい系のそれは、スイッチングに必要なエネルギーがはるかに少ないという利点がある。Orava助手は、「原子配列の変化は、比較的低いエネルギーコストで起こります。材料を融かす必要がないからです」と説明する。さらに、この新しいスイッチングは、規則正しい結晶へのスイッチングに比べて構造変化に関与する原子の数が少ないため、メモリーデバイスの作製に利用できる可能性がある。「次の研究段階として、私たちは新しい転移のダイナミクスと応用上のメリットを検証する予定です」とOrava助手は話す。
References
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Kalyva, M., Orava, J., Siokou, A., Pavlista, M., Wagner, T. & Yannopoulos, S. N. Reversible amorphous-to-amorphous transitions in chalcogenide films: Correlating changes in structure and optical properties. Advanced Functional Materials 23, 2052–2059 (2012). | article
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