高温超伝導体: 波に乗る超伝導

2013年05月27日

二硫化タンタル化合物に鉄をドープすると、超伝導と電荷秩序が共存することが明らかになった

1T-TaS2の電荷密度波(CDW)相では、タンタル(Ta)原子が整列して「ダビデの星」のパターンを形成する。
1T-TaS2の電荷密度波(CDW)相では、タンタル(Ta)原子が整列して「ダビデの星」のパターンを形成する。

© 2013 Ran Ang

電気抵抗がゼロになる超伝導は、エネルギーを失わずに結晶中を動き回ることのできる電子がペア(対)になることにより起こる現象である。絶対零度(-273℃)に近い低温で超伝導に転移する従来型の超伝導体では、結晶中の原子の振動が電子対の形成を促しているが、より高い温度で超伝導になる高温超伝導体では原子振動ではなく、磁気的な相互作用が超伝導のペアを形成するのに重要な役割を果たしていると考えられている。一方で、このような相互作用は、超伝導よりも別の秩序状態(磁性や構造の変化)を形成する傾向もあるため、超伝導の転移温度が未だに室温にまで到達していない要因の一つになっているという可能性も指摘されている。それゆえ、秩序が発現した状態と超伝導が共存し得るかという問題は理論的に説明が難しく、高温超伝導現象の解明を複雑化させていた。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の高橋隆教授らが率いる国際研究チームは、高分解能角度分解光電子分光法(ARPES)を用いて、超伝導がこうした競合状態と共存し得ることを証明した1。これは、より高い温度で機能できる超伝導体を開発するための極めて重要な知見である。

研究者らは今回、タンタル(Ta)層と硫黄(S)層からなる1T-TaS2と、鉄(Fe)をドープ(添加)した1T-TaS2の誘導体をそれぞれ調べた。低温では、1T-TaS2のTa原子がいわゆる「ダビデの星」のパターン(図参照)に整列し、絶縁挙動を示す。このとき、1T-TaS2の全体に、電荷密度波(CDW)と呼ばれる電子密度の周期的な変動が起こる。通常は、超伝導とCDW状態は相いれないものと考えられているが、研究者らは、一部のTa原子をFe原子に置き換えると超伝導が起こりうることを見いだした。

ARPESは物質に光を照射して電子を押し出すことにより、電子のエネルギーと運動量を測定するため、研究者は物質の電子状態を直接調べることができる。高橋教授らはこの手法を用いて、高温で特定の鉄濃度のときに形成される「整合に近いCDW」状態(NCCDW: CDWの周期が結晶格子の周期の整数倍に近くなる状態)のFeをドープした1T-TaS2内において、超伝導の特徴と考えられている浅い電子ポケットを確認した。研究チームの一員であるRan Ang助手は、「ARPESには、超伝導状態だけでなくCDW状態に関与する電子状態も明らかにできるという、ほかの実験手法にはない特徴があるのです」と説明する。

研究チームは、Feをドープした1T-TaS2結晶内では超伝導とCDW状態は分かれておらず、同時に存在していることを示すことができた。これは固有の特性であり、高温超伝導の起源に関する貴重な知見をもたらすものである。また、通常の金属状態と絶縁状態の間でスイッチングを行うことによってCDW相を制御できるため、「今後、こうした機能を応用した電子デバイスの開発が期待できます」とAng助手は話す。

References

  1. Ang, R., Tanaka, Y., Ieki, E., Nakayama, K., Sato, T., Li, L. J., Lu, W. J., Sun, Y. P. & Takahashi, T. Real-space coexistence of the melted Mott state and superconductivity in Fe-substituted 1T-TaS2Physical Review Letters 109, 176403 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

キーワード