スピントロニクス: 鏡面がもたらす新型トポロジカル物質の発見

2013年02月25日

結晶対称性に基づく新種のトポロジカル絶縁体が発見されたことで、新しいアプローチによる電子デバイスの可能性が見えてきた

従来のトポロジカル絶縁体とは異なり、スズテルル結晶から作製した新しいタイプのトポロジカル絶縁体の電子状態は「二重ディラック錐」の形をとる。
従来のトポロジカル絶縁体とは異なり、スズテルル結晶から作製した新しいタイプのトポロジカル絶縁体の電子状態は「二重ディラック錐」の形をとる。

© 2012 Seigo Souma
 

トポロジー(位相幾何学)は、さまざまな物体における本質的な性質の関係を研究する学問である。たとえば、構造中に穴がひとつ開いているコーヒーカップがドーナツと同相であり(つまり、穴を開けたり切ったりせずに連続して変形させると互いの形に変えられる)、サッカーボールとは異なる理由は、トポロジーで説明できる。トポロジーは幾何学の一部であるが、その概念は分野を超えて広く応用されている。物性物理学の分野では、物質内を運動する電子の量子状態をトポロジカル数として解析し、近年発見された「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる物質が注目を集めている。

トポロジカル絶縁体は、内部は絶縁体だが表面は導電性である。このユニークな物質のトポロジカルな性質は、内部の電子よりも高速で、かつ不純物に阻害されずに動くことのできる表面ディラック電子の状態に見られる。「これまでは、既知のトポロジカル絶縁体のすべてが電子状態の時間反転(ある運動を、時間の流れを逆にした運動に置き換えること)対称性に基づくものでした」と、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の相馬清吾助教は言う。しかし、彼らの研究グループはこのたび、東北大学理学部物理学科と大阪大学の研究者らと共同で、時間反転対称性だけでなく結晶対称性にも由来する特性を持つ興味深いスズテルル(SnTe)結晶系トポロジカル絶縁体を発見した1

時間反転対称性が保たれていると、時間が順方向に進んでも逆方向に進んでも、同じように事象が起こる。トポロジカル絶縁体の場合、これは電流が最小限の損失で流れることを意味しており、低エネルギーデバイスへの実用的な応用が大いに期待できる。加えて結晶対称性などの対称性も併せ持つことは、同様の電子の振る舞いを強化するのに役立つ可能性がある。時間反転対称性だけでなく結晶構造の鏡面対称性も示すスズテルル結晶は、その一例である。この物質の表面の電子状態は、はっきりした「二重ディラック錐」の形をとっており、このことはトポロジカル絶縁体の一種である証拠だという(図参照)。

「スズテルル結晶のトポロジカルな性質の発見は、トポロジカル絶縁体の新しい探索法への道を拓くものとなりました」と相馬助教は説明する。ただし、今回の発見までの道のりは容易ではなかったという。結晶不純物が最小限になるよう慎重にサンプルを作製してトポロジカル状態を観測するだけでなく、電子状態を正確に測定するために、光電子のエネルギーを測定する高分解能角度分解光電子分光法という高度な手法を用いる必要があったからである。

今後、研究チームはスズテルル結晶の電子物性を直接評価して、従来のトポロジカル絶縁体との違いがあるかどうかを確認する予定である。これは、機能性デバイスの作製に役立つと考えられている。相馬助教は、今回の研究がきっかけとなって、ほかの対称性に基づく絶縁体が存在できるようなトポロジーが発見され、画期的な電子デバイスの開発につながることを期待している。

References

  1. Tanaka, Y., Ren, Z., Sato, T., Nakayama, K., Souma, S., Takahashi, T., Segawa, K. & Ando, Y. Experimental realization of a topological crystalline insulator in SnTe. Nature Physics 8, 800–803 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。