超高硬度セラミックス: 孔をあけて丈夫にする
2013年01月28日
超高強度炭化ホウ素セラミックスに細孔性を導入すると、機械的変形が起きるときに壊れずに曲がるようになる
炭化ホウ素セラミックスは、弾丸をはじくほど硬いにもかかわらず非常に脆いため、低い応力で破壊が起こる。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のMingwei Chen(陳明偉)教授が率いる国際研究チームは、塑性変形が可能な「ナノ結晶」セラミックス状態の炭化ホウ素を合成することによって、その耐久性を高める方法を発見した1。意外なことに、今回の靭性の改善は、通常ならセラミックス材料を弱くする要因である細孔(ナノ孔)とアモルファス界面相の存在に由来している。
通常セラミックスは、圧縮粉末を融点よりわずかに低い温度まで加熱する焼結過程を経て作製される。この製法で得られる物質は非常に硬いが、破壊開始点となりうるさまざまな結晶粒構造が内部に発生してしまう。Chen教授らは今回、脆性(脆さ)を低減するため、この従来の方法とは異なる合成方法を試みた。すなわち、通常よりも低めの温度で高い圧力をかけて炭化ホウ素微結晶を焼結させることで、均一な粒径を得たのである。
研究チームは、得られたナノ結晶炭化ホウ素を高分解能電子顕微鏡とX線回折法を用いて調べ、セラミックスの微粒子構造を確認することができた。その結果、驚くべきことに、不規則な形状のナノ孔が全体に分布しているだけでなく、薄いアモルファス炭素層が結晶とナノ孔の表面を覆っていることを発見した。このような特徴は通常ならば完全に除去されるはずだが、今回は焼結温度が低いために一部残ってしまったと考えられる、とChen教授は説明する。
機械特性を確認する実験を行ったところ、この新しいセラミックスは、従来のどの炭化ホウ素よりも靭性が高く、最大で75%高い押し込み圧に耐えられることが明らかになった。また、変形後のセラミックスを再度調べたところ、結晶粒には変化がなく、ナノ孔の数が著しく減少していることが明らかになった。この観察から、ナノ孔とアモルファス炭素層が結晶粒を滑りやすくする潤滑剤の役割を果たしているため、結晶粒が圧縮中に滑り、より高い圧力に耐えられるようになったという仮説が導かれた。
研究者らは、ナノ結晶炭化ホウ素セラミックスを削って微小な柱状構造(マイクロピラー)を作製し、押し込みの効果を直接観察した(図参照)。マイクロピラーは、高い圧縮圧力をかけても金属のように曲がるだけで、粉々に砕けることはなかった。これは、この種の高硬度材料では観察されたことがない、新しい変形モードである。「この新規の塑性変形モードは、クラック先端のエネルギーを効果的に散逸させ、クラックの進展を防ぎます」 と研究チームの博士課程の学生であるMadhav Reddy氏は言う。
研究者らは、ナノ結晶炭化ホウ素の靭性の改善は、切削工具から防護服までさまざまな応用に役立つはずだと考えており、炭化ホウ素以外の高硬度セラミックス(炭化ケイ素など)にもこの強化方法を適用できるかどうか、現在検討を進めている。
References
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Reddy, K. M., Guo, J. J., Shinoda, Y., Fujita, T., Hirata, A., Singh, J. P., McCauley, J. W. & Chen, M. W. Enhanced mechanical properties of nanocrystalline boron carbide by nanoporosity and interface phases. Nature Communications 3, 1052 (2012). | article
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