組織工学: 細胞を長生きさせる足場材料

2012年11月26日

半天然ハイドロゲルからなる足場材料は、細胞の長期培養を可能にし、高度で複雑な人工組織の形成に有用である

GelMAを足場材料として用いることによって、細胞を望みの位置まで正確に誘導し、捕捉することができる。さらに、数日間捕捉した細胞を増殖させることができる。
GelMAを足場材料として用いることによって、細胞を望みの位置まで正確に誘導し、捕捉することができる。さらに、数日間捕捉した細胞を増殖させることができる。
 

© 2012 Royal Society of Chemistry

天然組織は高度に組織化された構造体であり、多くの場合、複数の種類の細胞がそれぞれの役割を果たすために最適な配列を組んでいる。けがや病気で生じた慢性的な損傷部への治療方法として、こうした生体組織の構造を模倣した人工組織の作製が試みられているが、決して容易ではない。

最近開発された誘電泳動などの手法を利用すれば、電場を用いることで生きた細胞を3次元マトリックス内で動かして、望みの位置まで誘導することができる。しかしながら、細胞を特定の位置に捕捉したまま長期にわたって培養することは困難であった。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のAli Khademhosseini主任研究者と末永智一主任研究者が率いる国際研究チームによって、この問題を解決しうる生体適合性の高い足場材料が開発された1

研究者らは、組織の足場材料として、ゼラチンベースの半天然ハイドロゲル材料「ゼラチンメタクリレート(GelMA)」を選択した。彼らは、これまでの研究からGelMAが細胞培養に適した材料であることを確認しており、従来の組織工学用足場材料が抱える典型的な問題を回避しうると期待した。「GelMAハイドロゲルは粘性と導電性が低いので、この材料を使えば誘電泳動で細胞を操作できるのではないかと考えました」とAIMRチームのメンバーであるSamad Ahadian助手は言う。

研究チームはGelMAを細胞培養用マトリックスとして用い、これが誘電泳動で細胞を望みの位置まで誘導するのに適した材料であることを確認した。次に、細胞が望みの位置に来たときに、その足場であるGelMAにUV光を照射した。その結果、ヒドロゲル内で化学的架橋反応が起きることで、高分子マトリックスが形成され、細胞を任意の位置で捕捉することに成功した。さらに、フォトマスクを用いて部分的にUV照射を行えば、足場の一部で細胞を捕捉した後、同じ足場材料内に別の種類の細胞を導入して捕捉できることも判明した。

重要な点は、架橋によるマトリックス形成後も、細胞はハイドロゲル内で長期的な生存能力を維持し、数日間に渡る培養工程でも容易に増殖できたことである(図参照)。GelMAがこのように高い生体適合性を示すのは、このハイドロゲルが天然ゼラチンをベースとしているからである。「GelMAは、細胞の接着、移動、増殖を促す天然の細胞接着性モチーフからできています」とAhadian助手は説明する。「GelMAの濃度を5wt%という最適な値にすることで、捕捉されている細胞が必要とする栄養分の取り込み、そして老廃物を排出するための空間を確保できるのです」。

研究の次のステップは、神経細胞や筋肉細胞などの分化した細胞を用いて人工組織を作ることである。Ahadian助手によると、GelMAの応用の可能性は損傷組織の修復にとどまらず、薬物スクリーニングやバイオアクチュエーターとしての利用も考えられるという。

References

  1. Ramón-Azcón, J., Ahadian, S., Obregón, R., Camci-Unal, G., Ostrovidov, S., Hosseini, V., Kaji, H., Ino, K., Shiku H., Khademhosseini, A. & Matsue, T. Gelatin methacrylate as a promising hydrogel for 3D microscale organization and proliferation of dielectrophoretically patterned cells. Lab on a Chip 12, 2959–2969 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

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