微小チップデバイス: 電気化学イメージング

2012年09月24日

胚性幹細胞の胚様体の活性をイメージングできる高密度電気化学デバイスが開発された

個々のセンサ上に置かれた胚様体の光学イメージ(左)と、今回開発されたチップデバイスを用いて検出された胚様体の電気化学イメージ(右)。
個々のセンサ上に置かれた胚様体の光学イメージ(左)と、今回開発されたチップデバイスを用いて検出された胚様体の電気化学イメージ(右)。

© 2012 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

胚性幹細胞(ES細胞)は、さまざまな細胞に分化させることができる有用な細胞である。この胚性幹細胞を3次元的に培養し、胚様体を形成させることで、心筋細胞などへの分化が可能になる。東北大学の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および環境科学研究科の研究者らは、このたび、幹細胞から形成させた胚様体の活性と分化をモニタリングする電気化学デバイスを開発した1

科学者らは通常、調べようとする生体分子を蛍光マーカーで標識することにより、その存在を特定し、定量化する。一方、末永智一教授、伊野浩介助教の研究グループは、網羅的な電気化学測定手法により生体分子を検出できる新しいデバイスを開発した。

電気化学的検出法は以前から用いられてきたが、今回のデバイスにはこれまでにない優れた特徴がある。深いマイクロウェルの底部に配列した16×16=256個の電気化学センサを、たったの16+16=32個の外部接続用のコネクタパッドに接続して検出を行うので、非常に高密度に電気化学センサをチップデバイス内に組み込むことを可能にした(図参照)。「電気化学チップデバイスにおける世界最高峰の電気化学センサ密度を誇ります」 と研究者らは説明する。

研究チームは、胚様体の細胞活性を「レドックスサイクリング」と呼ばれる電気化学的手法を用いて定量化した。レドックスサイクリングとは、測定対象物を電極上で酸化反応と還元反応を繰り返させて測定する手法である。開発したデバイスでは、各電極に適切な電位を設定して、特定のセンサでレドックスサイクリングを誘導することで、そのセンサにおける電流シグナルの取得を可能にしている。今回の研究では、このレドックスサイクリングを用いて、ES細胞の分化マーカーであるアルカリホスファターゼの活性を評価した。

開発した電気化学デバイスを用いることで、胚性幹細胞の分化を評価することに成功した。したがって、このデバイスは、胚様体の分化レベルのスクリーニングに役立つと考えられる。

研究チームは、本プロジェクトの次の段階で、イメージングの分解能を改良する予定である。「単一細胞や単一組織の電気化学イメージングができるように、電気化学センサのさらなる高密度化を考えています」と研究者らは言う。

References

  1. Ino, K., Nishijo, T., Arai, T., Kanno, Y., Takahashi, Y., Shiku, H. & Matsue, T. Local redox-cycling-based electrochemical chip device with deep microwells for evaluation of embryoid bodies. Angewandte Chemie International Edition 51, 6648–6652 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。