細胞イメージング: ナノ電極を利用して2種類の画像を同時に得る

2012年08月27日

表面形状と電気化学のイメージングを同時に取得できる最先端技術によって、生細胞の化学マッピングに新たな可能性がもたらされた

VSM–SECMイメージングで得られた有毛細胞の形状像
VSM–SECMイメージングで得られた有毛細胞の形状像

© 2012 PNAS

細胞が放出・消費する神経伝達物質や活性酸素系分子などの短寿命の電気活性種は、細胞代謝において中心的な役割を果たしている。しかし、細胞表面や界面でそのような活性種を検出することは、依然として困難である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機関(AIMR)の末永智一教授と高橋康史助手が率いる研究チームは、インペリアルカレッジロンドンのユリ・コルチェフ教授と共同で、電圧切り替えモード走査型電気化学顕微鏡法(VSM–SECM)という非侵襲的な高解像度イメージング法を開発した1。この手法は生理条件下で用いることができるため、生きている細胞の高解像度の形状像と電気化学像を同時に得ることができる。

細胞の表面形状や反応性を調べるため、これまでにも多くのSECMイメージング法が開発されてきた。しかし、SECMイメージングでは通常、微小電極の先端部(チップ)と試料との力学的相互作用力を利用して、チップと試料との距離を一定に保った状態で測定を行うため、細胞膜にダメージを与えてしまうおそれがある。

今回、末永教授、高橋助手らは、電極の位置制御に電気活性種の電気化学反応によって生じるファラデー電流を利用することで、電極が基板表面に触れないようにした。さらに、ガラスで絶縁したナノメートルサイズの炭素電極を作製して、高解像度イメージングを可能にした。

VSM-SECMは、電気活性種の還元電流をモニタリングしながら、チップを基板表面に近づけていく。チップが基板表面に近接すると、電気活性種の拡散が妨げられ、還元電流が減少する。あるレベルまで還元電流が減少したら、チップを止めてその位置を記録する。研究チームは、この位置で電極にかける電圧を切り替えて、電気活性種の活性も測定した。基板表面でこの過程を繰り返 すことにより、形状像と電気化学像を同時に得ることができた。

こうして得られた形状画像は、皮膚細胞や心臓細胞、細長い有毛細胞の微小な突起や波状の構造を明らかにした(図参照)。がんに関係する細胞膜タンパク質を可視化したところ、タンパク質の分布は一様ではなく、形状像で観察された微小な特徴と一致しないことがわかった。このことは、生体界面での化学マッピングにVSM-SECMが有用であることを示している。また、形状測定と電気化学測定を同時に行うことによって、ニューロンからの神経伝達物質の放出を検出することができた。さらに、SECM と蛍光顕微鏡を併用した結果、シナプスにおけるニューロンの末端部を明確に示すこともできた。

末永教授、高橋助手らは、現在、この新しい方法を用いてニューロン伝達のさらなる研究を行っている。「私たちは、神経伝達物質の放出サイトをマッピングしたいと思っています」と末永教授は言う。彼らはさらに、神経伝達物質放出に関連するニューロンの形状変化のモニタリングも行う予定である。

References

  1. Takahashi, Y., Shevchuk, A. I., Novak, P., Babakinejad, B., Macpherson, J., Unwin, P. R., Shiku, H., Gorelik, J., Klenerman, D., Korchev, Y. E. & Matsue, T. Topographical and electrochemical nanoscale imaging of living cells using voltage-switching mode scanning electrochemical microscopy. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 109, 11540–11545 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。