トポロジカル絶縁体: 伝導性を制御する

2012年06月25日

トポロジカル絶縁体材料の組成制御により、バルクへの電流漏れを防ぐと同時に、興味深い表面特性を引き出す

トポロジカル絶縁体Bi2-xSbxTe3-ySeyにおけるディラックコーンの制御。Bi/SbとTe/Seの組成比を制御することによって、バルクの絶縁性を維持したまま、ディラックキャリアの充填状態が変化する。
トポロジカル絶縁体Bi2-xSbxTe3-ySeyにおけるディラックコーンの制御。Bi/SbとTe/Seの組成比を制御することによって、バルクの絶縁性を維持したまま、ディラックキャリアの充填状態が変化する。
 

 

トポロジカル絶縁体は、あらゆる材料の中でも特に興味深い伝導性を示す。バルクは電流を通さないが、表面は伝導性が高く、表面電流の磁気スピン配向が比較的維持されやすいためだ。このユニークな挙動ゆえに、トポロジカル絶縁体の特性の背景を探る基礎科学研究や、超低電力スピントランジスタなどの応用研究がさかんに行われている。このほど、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の荒金俊行助手、高橋隆教授および東北大学と大阪大学の共同研究者らは、トポロジカル絶縁体の研究に役立つと思われる材料を開発した1

研究者らは、この分野の重大な未解決問題に注目した。それは、既存のトポロジカル絶縁体のバルク部分には電流を流す欠陥があるため、実験で表面電流の挙動を調べようとしてもバルク電流のために不明瞭になってしまうという問題である。これに関しては、別の研究者らによる過去の研究から、トポロジカル絶縁体の元素組成を操作することによって、表面伝導度を高く維持したままバルク伝導度を低減できることがわかっている。

荒金助手らはこの研究を一歩進めて、トポロジカル絶縁体の組成を操作することにより、バルク伝導度を低く維持しながら、正負の電荷キャリアの間で表面電流を調節できることを示した。研究チームが研究対象として選んだのは、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、セレン(Se)からなるBSTSという材料である(図参照)。BSTSは、2つのタイプの結晶欠陥を持つことが知られている。1つは正電荷キャリアに寄与する欠陥であり、もう1つは負電荷キャリアに寄与する欠陥である。研究者らは、各元素の相対量を精密にコントロールすることによってこれらの欠陥のバランスをとり、バルクの伝導度を最小限に抑えることができた。

研究者らは、この組成コントロールが表面電荷キャリアのエネルギー制御にも利用できることを、角度分解光電子分光法によって明らかにした。彼らは、キャリア濃度がゼロになるディラックエネルギー点まで表面キャリアを調節することに成功した。さらに、ディラックエネルギー点の下(または上)までキャリアエネルギーを調節し、表面キャリアを正(または負)へと変化させることにも成功した。いずれの場合も、バルクの伝導度は低いままであった。

荒金助手によると、この研究は、各種のエキゾチックな量子効果の観測を可能にするという。「私たちは、トポロジカル磁気電気効果、量子スピンホール効果、励起子凝縮などの効果が観測できるようになることを期待しています。これらはいずれも、理論的には発現が示唆されているものの、バルクキャリアの問題があるため、まだ実験的には観測されていない効果です」。研究チームは、将来的には薄膜成長技術に研究の重点を置くことにしており、この技術はデバイス応用に役立つだろうと考えている。

References

  1. Arakane, T., Sato, T., Souma, S., Kosaka, K., Nakayama, K., Komatsu, M., Takahashi, T., Ren, Z., Segawa, K. & Ando, Y. Tunable Dirac cone in the topological insulator Bi2–xSbxTe3–ySey. Nature Communications 3, 636 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。