薄膜: 分子で磁性が変化する

2012年02月27日

分子層は界面効果を通してコバルト薄膜の磁気特性に強い影響を与える

コバルト薄膜表面のペンタセン分子層の概念図。コバルト原子(灰色)のスピン(青い矢印)は垂直磁気異方性のため膜面直を向いている。炭素原子(黄色)と水素原子(赤色)から構成されるペンタセン分子はコバルト薄膜表面で結晶を形作っている。
コバルト薄膜表面のペンタセン分子層の概念図。コバルト原子(灰色)のスピン(青い矢印)は垂直磁気異方性のため膜面直を向いている。炭素原子(黄色)と水素原子(赤色)から構成されるペンタセン分子はコバルト薄膜表面で結晶を形作っている。

 

強磁性金属薄膜は、電子の電荷とスピンの両方を利用できるため、多くのスピントロニクスデバイスにおいて極めて重要な役割を果たす。強磁性金属電極の磁化によって電子のスピンを制御するスピンバルブは、その典型的な例である。

垂直磁気異方性(PMA)は原子スケールの厚みの強磁性薄膜で発現する現象であり、磁気スイッチングに必要とされる外部磁場の大きさ(保磁力)を左右する。有機スピンバルブデバイスでは、強磁性薄膜表面に堆積された分子層がスピン注入・検出効率に影響を及ぼすことが知られているが、強磁性薄膜の磁気特性への分子層が及ぼす影響についてはよくわかっていない。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のXianmin Zhangポスドク研究員らは、このたび、コバルト薄膜に各種の分子層を堆積させると、その分子の性質によってPMAが異なる影響を受けることを実証した1。 この結果は、コバルト薄膜の基礎的な磁気特性を理解するために重要であると同時に、強磁性金属電極間に分子層が配置された有機スピンバルブの特性を改善するための知見を与えるものである。

研究者らは、コバルト薄膜に堆積させる分子として、アルミニウム錯体のトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、直線状芳香族分子のペンタセン、60個の炭素原子からなる中空球状ケージのフラーレンという3種類を選んだ。研究チームは、分子層をいろいろな厚さのコバルト薄膜に堆積させ、その試料面に対して平行または垂直に外部磁場を印加して磁化ループを測定した。フラーレンとアルミニウム錯体で被覆したコバルト薄膜の磁化ループは良く似ているが、ペンタセンで被覆した場合の磁化ループはほかの分子層で被覆した試料の1.6倍の保磁力を示すことが明らかになった。

Zhang研究員らは、観測された磁気的挙動の相違は、コバルト-分子層界面における相互作用の相違によるものと考えており、この起源を調べるため、さらなる実験を行う予定である。コバルト薄膜上に堆積したペンタセンの結晶構造は、アルミニウム錯体やフラーレンの構造とは異なっていた。研究チームは、アルミニウム錯体とフラーレンはコバルト薄膜と化学的に結合しているが、ペンタセンはコバルト薄膜に物理吸着しており、それによって結晶構造や磁気的挙動に違いが現れると推測している。物理吸着は、分子の電子構造が変わらない、弱い相互作用である。

これらの結果は、将来の研究に重要な影響を及ぼすと予想される。「今回の発見は、強磁性金属と分子または分子集合体界面における相互作用の理解を深めるきっかけになるかもしれません。また、将来の新しい有機-無機ハイブリッド・スピントロニクスデバイスの設計にも役立つでしょう」とZhang研究員は言う。

References

  1. Zhang, X., Mizukami S., Kubota, T., Oogane, M., Naganuma, H., Ando, Y., & Miyazaki, T. Interface effects on perpendicular magnetic anisotropy for molecular-capped cobalt ultrathin films. Applied Physics Letters 99, 162509 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。