サスティナブルケミストリー: もっと地球に優しい触媒を

2011年08月29日

パラジウム触媒を丈夫なナノ多孔質金属ガラスの形にすることで、炭素-炭素カップリング反応時の触媒の溶出問題に新たな解決の糸口を見出した

図1:ナノ多孔質パラジウム材料(中央)は、ベンゼン型化合物のカップリング反応の触媒となる。この触媒は、耐久性が高く、何度も使用できる。
図1:ナノ多孔質パラジウム材料(中央)は、ベンゼン型化合物のカップリング反応の触媒となる。この触媒は、耐久性が高く、何度も使用できる。

 

炭素-炭素結合の形成を通じて2個のベンゼン環をつなげることは、決して容易ではない。しかし、パラジウムなどの貴金属触媒は、こうしたカップリング反応を温和な条件下で進行させることができるため、医薬品や有機半導体の合成をはじめとするさまざまな分野で飛躍的な進歩を遂げてきた。けれども残念ながら、パラジウム触媒は高価なうえ毒性があり、最終生成物との分離も難しいという欠点がある。固体担持型の触媒を用いれば溶液中のパラジウムの量を減らすことができ、分離操作も簡単になるが、それでもある程度の量のパラジウムは溶媒に溶出してしまうため、生成物に残留する可能性がある。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の浅尾直樹教授、山本嘉則教授および共同研究者ら1は、このたび、多孔質構造を有するパラジウム金属が、炭素-炭素カップリング反応の触媒として利用できることを見出した。この触媒は繰り返し使用することができ、溶媒中へのパラジウムの溶出は無視できるほど微量である。本触媒は金属ガラスから電気化学的手法で作製することができ、均一なナノ多孔質骨格を持つために非常に優れた活性も併せ持つ。より安全で、より持続可能な化学的手法が求められている産業界にとって、この2つの進歩は極めて重要である。

金属ガラスは、原子の混合物(ここではパラジウムとニッケルとリン)が急速冷却されてアモルファス固体状態となった、堅くて強い合金である。金属ガラス材料は原子が非常に密に詰まっているため、高い弾性を示す。しかし、バルクの金属ガラスの触媒活性は高くない。バルクに含まれるパラジウム原子のうち、有機試薬と十分に接触して相互作用できるのは、バルク表面のごく一部にすぎないからである。

研究チームは、パラジウム金属の「貴金属性」としての強い耐電食性を利用することによって、この問題を解決した。浅尾教授の説明によると、パラジウム-ニッケル-リン金属ガラスを電気分解すると、ニッケル原子とリン原子は溶け出すが、パラジウム原子は凝集してクラスター化し、3次元ネットワークを形成する。最初の合金の組成が均質であるため、エッチングにより得られるパラジウム触媒は直径が約30ナノメートルの均一な細孔分布を持つ。

研究チームは、このナノ多孔質触媒を用いて、ヨウ化ベンゼンとアリールボロン酸による典型的な鈴木カップリング反応を行ったところ、ほぼ定量的に目的の生成物を得ることができた(図1)。この触媒を4回繰り返し使用しても、カップリング反応は極めて効率よく進行した。反応中に溶液中に溶け出したパラジウムの量は、測定装置の検出限界以下の0.0005%を下回ることも明らかにした。

「特に医薬品を合成する場合には、パラジウムの残留を避けなければなりません」と山本教授は言う。「私たちの研究結果は、溶出の問題を解決するひとつの方法を示すと同時に、今後も技術革新を続けていくことにより、ナノ多孔質パラジウムが『地球に優しい』触媒としてこれからますます利用価値が高まっていくことを示していると思います」。

References

  1. Tanaka, S., Kaneko, T., Asao, N., Yamamoto, Y., Chen, M., Zhang, W. & Inoue, A. A nanostructured skeleton catalyst: Suzuki-coupling with a reusable and sustainable nanoporous metallic glass Pd-catalyst. Chemical Communications 47, 5985–5987 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。