金属ガラス: 応力で流動化する

2010年09月27日

数千個の原子運動をシミュレーションした結果、金属ガラスにかけた応力によって、「ガラス状態」が「流動する液体」に変化することが明らかになった

図1: せん断応力をかけるシミュレーションを行った金属ガラス系の概略図。
図1: せん断応力をかけるシミュレーションを行った金属ガラス系の概略図。

未来の携帯電子機器には、へこみや衝突による損傷を防ぐために「金属ガラス」とよばれる新種の丈夫な合金が使われるかもしれない。融けた金属合金を急速に冷却することにより形成される金属ガラスは、原子が密に詰まった非結晶性の内部構造をとるため、従来の結晶性金属よりも弾性と強度にすぐれ、傷がつきにくい。しかし、金属ガラス内部の原子分布がランダムであることは、機械的特性の最適化を困難にし、破砕や突発的破壊などの問題につながる可能性がある。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の陳明偉教授、Pengfei Guan研究員、江上毅連携教授が行ったコンピュータシミュレーションから、金属ガラスの機械破壊に関する新しい微視的知見が得られた1。研究チームは、材料を引き伸ばそうとする外部応力が、液体状の原子の「流れ」を誘発することを見いだした。この流れは、温度を上げたときに起こる現象とよく似ている。今回の発見によって、こうしたガラス状態の形成機構が明らかになり、金属ガラス合金の製造に対する信頼性が大幅に向上することが見込まれる。

金属ガラスは固体状であるが、実際には、固体と液体の間に位置づけられる「凝縮(ジャミング)状態」として存在している。高温で流動性のある金属原子を鋳型に入れ、それから急速に冷却すると、液体は「凍結」してガラス状態に変わる。体積を膨張させたり加熱したりすると、原子がふたたび流動し始める。しかし、このジャミング状態に対して、外部応力がどのような役割を担っているかについては、研究者の間で意見が割れていた。

陳教授らは、分子動力学シミュレーションというコンピュータ計算技術を用いてモデリングを行った。彼らは、体積一定、温度一定という条件のもと、ジルコニウム-銅-アルミニウム金属ガラスに徐々にせん断応力をかけたときの金属ガラス中の原子運動をシミュレーションした(図1)。さまざまなせん断速度を考慮して数多くのシミュレーションを行ったところ、金属ガラスが破断する前に、金属原子が液体に似た定常粘性流状態に入ることを見いだした。

注目すべきは、金属ガラスに応力をかけたときの粘度が、温度を上げたときの粘度とよく似ていることである。そして研究者らは、「ガラス状態」と「流動する液体」の両方について、その必要な形成条件を、応力と温度のスケール則でモデリングすることができた。つまり、温度効果と応力効果は似ており、温度と応力が同様に原子の流動に影響を及ぼすことを示唆している。「このことは、現象や構造が見かけは複雑に見えても、その根底ではガラスのダイナミクスが単純であることを表しているのです」と陳教授は語っている。 

References

  1. Guan, P., Chen, M. & Egami, T. Stress-temperature scaling for steady-state flow in metallic glasses. Physical Review Letters 104, 205701 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。